肝癌はもっとも予後が不良な固形癌のひとつである。近年のゲノム解析技術の目覚ましい進歩にもかかわらず、切除不能進行肝癌に対する有効な化学療法は限られており、革新的なアプローチによる新規治療法の開発が急務である。本研究では、外科手術検体から肝癌患者腫瘍組織移植(patient-derived xenograft; PDX)モデルを作成し、細胞表面タンパク質(サーフェスオーム)解析から下流の活性化シグナル経路同定のためのリン酸化タンパク質解析まで含む高深度な多層プロテオーム解析によって、新規治療標的分子や薬剤感受性予測バイオマーカーの探索同定を行った。現在までに、7例の肝癌PDXモデルと1例の患者由来細胞(Patient derived cells; PDC)を作成し、それぞれゲノム、トランスクリプトーム、サーフェスオームを含む空間プロテオーム解析を行い、他癌種PDX腫瘍や正常肝組織の多層オミクスデータとの比較から、肝癌分子シグネチャの同定を進めている。また、高脂肪食付加MC4R欠損マウスの組織トランスクリプトーム・プロテオーム解析から、代謝負荷下におかれた肝癌細胞に特徴的なシグナル依存性を抽出し、ヒトNASH由来肝癌における有望な新規治療標的になりうると考えられた。さらに、並行して樹立したマウス肝臓癌細胞株を用いてCRISPR-Cas9システムを用いたゲノムワイド機能スクリーニングを行った。これにより、レンバチニブに合成致死を示す遺伝子を同定し、その下流ターゲットとして同定した核酸代謝に関与する分子に対する阻害剤とレンバチニブが合成致死を示すことを見出し、ドラッグリポジショニングによる創薬につながることが期待された。
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