研究実績の概要 |
近年、癌の進展における癌細胞と周囲微小環境との相互作用の重要性が報告されている。 本研究課題は、血中に豊富に存在する血小板に着眼し、特に周術期における術中出血の観点からも、血小板と癌細胞との接着や、血小板由来因子の癌細胞や周囲支持細胞への影響を検討し、その分子機序の解明や接着阻害による新たな周術期の併用治療法の開発を目的とした。血小板と胃癌細胞株との混合培養を行うことによる胃癌細胞の浸潤・遊走能変化を検討した。胃癌細胞の増殖能 は、胃癌細胞MKN74及びNUGC-3において血小板との共培養により有意に増強されたが、その差はMKN74(P = 0.014, P = 0.018)よりもNUGC-3(P < 0.001, P = 0.001)で顕著であった。また、血小板との混合培養で両胃癌細胞株の遊走能は有意に上昇した(P < 0.001, P < 0.001)。同様に、浸潤能も、両細胞株で血小板との共培養後に有意に上昇した(NUGC-3、P = 0.017 および MKN74、P = 0.002 )。中皮細胞株Met-5Aを用いた接着assayでは、血小板との共培養により胃癌細胞の接着能が有意に増加した(NUGC-3, P = 0.036、MKN74, P = 0.022)。血小板が胃癌細胞と接着し、周囲支持細胞へも影響を与えることで胃癌細胞の悪性化に寄与している可能性が示唆された。胃癌患者の血小板添加による胃癌細胞株の発現変化に関してmicroarrayを用いて検討し、血小板と48時間共培養した胃癌細胞において、617のアップレギュレートmRNAと734のダウンレギュレートmRNAを同定し、EMT関連mRNAに変化を認めた。MMP9の発現上昇は、複数サンプルでのmRNA発現、タンパク質発現の検証実験でも確認された。
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