研究課題
本研究は、癌幹細胞(Cancer stem cell: CSC)を標的とした食道癌に対する新規治療法開発を目的とする。CSC は癌組織中に極少数含まれ、転移能、抗癌剤耐性や放射線治療抵抗性を有し、消化器癌の術後再発や遠隔転移に関与しているという仮説が提唱されており 、癌の根治にはその制御が不可欠である。我々は独自の方法で癌細胞株から癌幹細胞様細胞 (Cancer stem-like cells: CSLC)を誘導することに成功し、成果を報告してきた。本研究では、食道癌より独自に樹立したYES1-6にKYSE30と KYSE70を加えた8種類の食道癌細胞株からCSLCの誘導を行った。CSLCの誘導には独自のsphere誘導培地 (SIM) を用い、形態的にsphere誘導能を評価した結果、KYSE70及びYES2をsphere形成株、KYSE30をsphere非形成株として以後の解析に用いた。これら細胞株の通常培養下とSIMでの培養下での抗癌剤耐性 (5-FU, CDDP, ドセタキセル) を評価した。Sphere非形成株であるKYSEではSIM培養下での抗癌剤耐性化は認められなかったが、Sphere形成株であるKYSE70はSIM培養下において5-FUおよびドセタキセルに対する耐性化を認め、YES2は同様にCDDPに対する耐性化を認めた。これらの細胞株を通常培養下とSIMでの培養下での培養後にRNAを抽出し、RNA-seqおよびGene Set Enrichment Analysisを行った。その結果、KYSE70とYES2に共通して、通常培養下と比較してSIM培養下での低酸素やABCトランスポーターの正のenrichmentや細胞周期の負のEnrichmentが確認された。これらは、先行する肝癌CSLCでの結果と一致していた。
2: おおむね順調に進展している
CSLCの誘導方法を長期培養系から短期培養系へと変換し、肝癌CSLCと同様なsphere形成能・抗癌剤耐性能の誘導・非誘導株を得ることができた。さらにこれらの網羅的発現解析の結果からもSIMを用いた培養からCSLCが誘導できていることを確認でき、これらにおける抗癌剤耐性機構にかかわる特徴的な遺伝子発現を得ることができた。
得られた食道癌CSLCにて特徴的な発現を示した遺伝子を標的としてさらに機能解析を進める。
当初予定よりも旅費の支出が抑えられた。動物実験費用に用いる予定である。
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