研究実績の概要 |
2023年度は肝切除術の手術侵襲度を酸化ストレスの観点から評価した。酸化ストレスの評価は抗酸化能力の測定(BAP test)と活性酸素・フリーラジカルの代謝産物であるヒドロペルオキシドの定量測定を行い(d-ROM test)、その比率を酸化ストレス度と規定した(BAP/d-ROM)。肝臓手術直前・直後の酸化ストレス度変化量と手術侵襲度評価に有用と報告されているestimation of physiologic ability and surgical stress (E-PASS)との相関を検討した。研究期間に開腹手術10例、腹腔鏡手術19例の計29例の肝切除を行った。手術前後の酸化ストレス度変化量はE-PASSのsurgical stress score (SSS)と有意な相関関係を示し(r=0.58, p<0.01)、患者個々の生理機能を加味した総合リスクスコア(CRS: comprehensive risk score)とは、より強い相関関係を示した(r=0.62 p<0.01)。これらの結果より、肝切除前後の酸化ストレス度変化量は患者個々の手術侵襲度を反映しうる評価方法であることが示唆された。また腹腔鏡下肝切除の手術難度はIWATE criteriaによるdifficulty score (DS)によって規定されている。難度の高い手術は手術侵襲度も高いと考えられ、DSと肝切除術前後の酸化ストレス度変化量の相関を検討したところ、有意な相関関係を示した(r=0.47, p=0.04)。この結果は、肝切除術前後の酸化ストレス度変化量は腹腔鏡下肝切除の手術侵襲度評価にも有用である可能性が示唆された。 2023年度は肝臓手術だけでなく、膵臓手術の一つである開腹膵頭十二指腸切除術(PD)でも同様に術前後の酸化ストレス度変化量が手術侵襲度を反映するか、E-PASS socreとの相関を検証した。研究期間に30例のPDを施行し、術前後の酸化ストレス度変化量はCRSと有意な相関関係を示し(r=0.55, p<0.01)、膵臓手術での侵襲度評価にも酸化ストレス度測定は有用である可能性が示唆された。
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