研究実績の概要 |
ヒト大腸癌細胞株HT29, T84より、癌幹細胞マーカーALDH1を用いて癌幹細胞を抽出し、継代培養することに成功した。これを細胞容積変化を測定可能でるMultisizerを用いて、低浸透圧刺激を加えた際の容積変化を評価したところ、起源の癌細胞株では細胞増大後、容積が元に戻ろうとするregulatory volume decrease(RVD)が生じることに対して、癌幹細胞ではRVDは生じず、比較的低い浸透圧においても細胞増大そのものが抑制されていた。この現象は、細胞のviabilityを検証する実験でも結果が一致しており、低浸透圧刺激に一定期間曝露し培養後の細胞数を検証する実験で検証したところ、起源の細胞株に対して、癌幹細胞の方が生存細胞数が多いことが判明した。このことから、大腸癌幹細胞は低浸透圧刺激に耐性を有していることが推測された。この機序を調査すべく、HT29由来の癌幹細胞にmicro arrayを施行すると細胞容積調整に関与するイオン輸送体として、CLCN-5, LRRC8a, AQP5が高発現しており、RT-PCR法による再検証でも上昇が再確認された。これらの内、LRRC8aが近年注目される細胞容積調整に関与するクロライドイオンチャネルであるため、この分子に注目してさらに実験を進めることとした。癌幹細胞のLRRC8aをsiRNAを用いてknockdownし低浸透圧刺激時のviabilityを検証したところ、knockdownした癌幹細胞の増殖が抑制されていた。 当初の研究計画ではApoptosisに関連する細胞容積調整を評価する予定であったが、より明確な癌幹細胞が低浸透圧刺激に対する耐性を有するという新たな知見とその機序の一部が解明された。このデータに基づき、より詳細な癌幹細胞における細胞容積調整関連イオン輸送体の変化や役割について検証を継続していく予定である。
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