腸管虚血再灌流(I/R)障害は、腸管自体の障害のみならず、遠隔臓器障害もきたして全身性炎症や多臓器不全を惹起するが、その分子機構は不明である。申請者はこれまで腸管I/R障害におけるNLRP3インフラマソームの役割について報告しており、この知見をさらに発展させるため、非標準インフラマソームのCaspase-11(Casp11)および炎症性細胞死(Pyroptosis)の実行因子であるGasdermin D(GSDMD)の遺伝子改変マウスを用いて解析を行い、Casp11変異マウス(申請者らが作成)では、腸管I/R後の生存率が延長したが、GSDMD欠損マウスでは生存率が増悪することを明らかにした。一方、放射線照射による腸管障害におけるインフラマソームの役割についても検討を行った。腹部に放射線照射を受けた野生型マウスでは腸管長や体重の減少、および生存率の短縮が認められたが、これらはNLRP3やCasp1、IL-1βの欠損により有意に改善することを明らかにした。また、放射線照射によって誘導される腸管でのDNA傷害や、炎症および線維化因子の発現増加もNLRP3やCasp1、IL-1βの欠損により改善した。さらに、In vitroの解析により、放射線照射がマクロファージにおいてインフラマソームの形成を促進してIL-1β産生を増加されることもわかった。これらの結果より、腸管において、インフラマソームを介した炎症および細胞死が重要な役割を果たしていることが示され、インフラマソームの関連分子が腸管疾患の治療標的になり得ることが明らかになった。
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