研究課題
我々はこれまでに、肝幹/前駆細胞のマーカーであるkeratin 19 (K19)に着目し、肝癌の癌幹細胞に関する研究を行ってきた。現在までに、K19は肝細胞癌における癌幹細胞マーカーでありその発現は強い独立予後不良因子となること、K19陽性癌幹細胞はTGFb/Smad pathwayの制御を介した種々の悪性形質に関与していることを明らかにしてきた。さらに、K19の断片であるcytokeratin 19 fragment (CYFRA 21-1) はK19陽性癌幹細胞の新規追跡血清マーカーとなること、糖代謝の画像評価法である18F-FDGPETを用いて肝細胞癌におけるK19発現予測が可能であることを示してきた。肝癌の治療効果を改善するためには、転移・再発の中心的役割を担う癌幹細胞とともに、癌幹細胞の悪性形質発現に寄与する周囲環境を標的とした新規治療法の開発が重要である。本研究は、肝細胞癌においてその発現が強い予後不良因子となるK19に着目し、肝細胞癌の約15%を占めるK19陽性肝細胞癌に対する新規治療戦略構築を目的とする。現在、K19陽性肝細胞癌検体の遺伝子変異に関する網羅的調査結果の解析を進め、K19陽性肝細胞癌が示す悪性形質について特にsignaling pathwayの観点から検証を重ねている。一方、肝癌における遺伝子情報と手術治療の関係性を調査し、個々の症例が有する遺伝子情報に基づいた手術治療の可能性についても検証を進めている。
3: やや遅れている
網羅的調査結果の解析に当初の予定よりも時間を要している。
K19陽性肝細胞癌の制御に関わるsignaling pathwayの解析を進め、得られた結果から推察されるK19陽性肝細胞癌の新規治療薬候補の有効性を脱細胞化肝臓における肝細胞癌3次元立体培養モデルにて検証していく。また、肝癌(原発性肝癌・転移性肝癌)における遺伝子情報と手術治療の関係性を詳細に調査し、個々の腫瘍が有する遺伝子情報に基づいた個別化外科治療の可能性を検証していく。
K19陽性肝細胞癌の遺伝子網羅的調査結果の解析に当初の予定よりも時間を要しているため、当初予定していた新規網羅的解析に必要な費用を次年度に使用することとなった。また、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う学会参加機会の縮小により当初の予定よりも出張旅費が少なかったが、徐々に社会全体の学会開催状況も回復してきており、次年度は今年度計画していたものも含め国際学会・国内学会発表を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Surgery
巻: 171 ページ: 1290~1302
10.1016/j.surg.2021.08.015