研究課題
我々はこれまでに、keratin 19 (K19) ・sex determining region Y-box 9 (SOX9) といった正常肝発生における重要な因子に着目した研究を進め、K19は肝細胞癌の癌幹細胞マーカーでありK19陽性癌幹細胞はTGFβ/Smad pathwayの制御を介した種々の悪性形質に関与していること、SOX9はK19とは独立した肝細胞癌の癌幹細胞マーカーでありSOX9陽性癌幹細胞はWnt/βcatenin pathwayの活性化を機能的背景としていることを示してきた。また、K19の断片であるcytokeratin 19 fragment (CYFRA 21-1) はK19陽性癌幹細胞の新規追跡血清マーカーとなること、糖代謝の画像評価法である18F-FDGPETを用いて肝細胞癌におけるK19発現予測が可能であることを示してきた。肝癌の治療効果を改善するためには、転移・再発の中心的役割を担う癌幹細胞をはじめとする高悪性度癌細胞とともに、こうした高悪性度肝癌細胞の悪性形質発現に寄与する周囲環境を標的とした新規治療法の開発が重要である。現在、高悪性度肝癌検体の遺伝子変異に関する網羅的調査結果の解析を進め、K19陽性肝細胞癌・SOX9陽性肝細胞癌が示す悪性形質についてsignaling pathwayの観点から検証を重ねている。一方、肝癌における遺伝子情報と手術治療の関係性を調査し、個々の症例が有する遺伝子情報に基づいた手術治療の可能性についても検証を進めている。これまでに、肝癌に対する低侵襲肝切除の術後成績に対する有用性を示したほか、KRAS野生型大腸癌肝転移に対する系統的肝切除が術後生存期間を延長する独立予後改善因子となるという「大腸癌由来転移性肝癌に対する遺伝子背景別の手術治療の可能性」を示した。
3: やや遅れている
K19陽性肝細胞癌の遺伝子変異に関する網羅的調査結果の解析に当初の予定よりも時間を要している一方、SOX9陽性肝細胞癌やRAS野生型および変異型大腸癌由来転移性肝癌に関する臨床研究において遺伝子情報に基づいた手術治療の可能性が示唆されつつある。このため、K19陽性肝細胞癌を含む種々の高悪性度肝癌(原発性・転移性含む)に対する遺伝子背景別に最適な集学的治療を検討する必要が出てきており、当初の予定よりも研究進捗に時間を要している。
K19陽性肝細胞癌・SOX9陽性肝細胞癌・RAS野生型および変異型大腸癌由来転移性肝癌の制御に関わるsignaling pathwayの解析を進め、得られた結果から推察される新規治療薬候補の有効性を脱細胞化肝臓における肝癌3次元立体培養モデルにて検証していく。また、肝癌(原発性肝癌・転移性肝癌)における遺伝子情報と手術治療の関係性を多機関共同前向き臨床研究にて調査し、個々の腫瘍が有する遺伝子情報に基づいた個別化外科治療の可能性を検証する。
研究過程において、当初予定していたK19陽性肝細胞癌のほかにSOX9陽性肝細胞癌やRAS野生型および変異型大腸癌由来転移性肝癌に対する個別化治療の探索を進めていく必要が出てきたため、この探索に必要な費用を次年度に使用することとなった。また、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う学会参加機会の縮小により当初の予定よりも出張旅費が少なかったが、徐々に社会全体の学会開催状況も回復してきており、次年度は今年度計画していたものも含め学会発表を行う予定である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Surgery
巻: 172 ページ: 1133~1140
10.1016/j.surg.2022.05.014
Scientific Reports
巻: 12 ページ: 17136
10.1038/s41598-022-21650-1