研究実績の概要 |
これまで膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic neuroendocrine tumors; PanNETs)は低悪性度の希少疾患とされてきたが、実際は転移を伴う進行例が初診時の半数もいることがわかった。World Health Organaization; WHOがNETをG1, G2, G3と分類したが、必ずしもこのWHO分類は臨床的悪性度と一致せず、PanNETsの臨床的悪性度の新しい指標を確立する必要がある。 今回我々はPanNETsの中でもインスリノーマに注目した。インスリノーマは意識障害やけいれんなどの中枢神経症状を含む、多彩な低血糖発作を引き起こし患者のQOLを著しく低下させる疾患である。手術により根治が期待出来、悪性所見を伴わない場合は核出術が推奨されているが、良悪性インスリノーマの鑑別は明らかでない。 当科が経験したインスリノーマ36例を後方視的に解析すると、37例中3例は膵原発巣が非機能性NETであり、肝転移先がインスリノーマとなっていた。男女比は男性15例/女性21 例、初回治療時の年齢(中央値,範囲)は56(7-77)であった。手術は32例に施行され、術式は核出術8例、膵頭十二指腸切除術7例(鏡視下1例)、膵体尾部切除16例(鏡視下10例)、肝切除2例であった。原発巣Ki67(中央値,範囲)は1.5(0.6-41.6)で、WHO分類NET G1/G2/G3はそれぞれ22/9/1例、NECは1例であった。腫瘍径(中央値,範囲)は15(8-120)mmであった。膵原発インスリノーマを切除した30例のうち、術後転移・再発を来した悪性インスリノーマは10例(33%)に認めた。悪性インスリノーマのリスク因子を検討するとG2以上(p=0.026)、MEN1型(p=0.002)、腫瘍径(p<0.001)であった。
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