本研究の目的は、膵頭十二指腸切除(PD)後に生体内で起こる脂質吸収・代謝の変化の詳細を明らかにすることである。PDの術後には外分泌障害(脂肪吸収障害)が25から65%の割合で起こるとされる。しかし、本研究以前に実際に脂質吸収・代謝の変化を定性・定量的に評価した報告はなかった。また、術後の外分泌障害に対して、実臨床では患者症状に基づいて膵消化酵素補充療法(PEI)を行っているが、治療の目的となる適切かつ客観的な指標は長く不明であった。 本研究では、PDを施行した患者100例の術前および術後1ヶ月、3ヶ月血漿を質量分析計という新しい方法を用いて解析し(網羅的脂質メタボローム解析)、継時的かつ網羅的に脂肪代謝産物の血中濃度の変化を測定する計画のもとに行った。今まで脂肪代謝に関しては技術的な難度の高さから困難とされてきたが、近年の質量分析装置の進歩に伴い脂肪代謝産物の網羅的解析(メタボローム解析)が実現可能となりつつある。本研究では網羅的解析の結果、PD前後の検体から16種類の脂肪酸(9種類の必須脂肪酸、7種類の非必須脂肪酸)を検出し、術後には有意に必須脂肪酸濃度が低下していることが確認された。さらに、術後脂肪肝発症はPD術後の約30%に認められ、脂肪肝発症と必須脂肪酸濃度の間に相関関係が認められた。 本研究の結果からは、PD術後の外分泌機能障害のバイオマーカーとして必須脂肪酸濃度が有用である可能性が示唆された。
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