研究課題
本研究の目的は、食道がんにおけるT cell inflamed phenotypeの分子生物学的特徴を明らかとし、食道がんの再発や予後のバイオマーカーとしての有用性を明らかとすること、および末梢血リンパ球分画との関連性を明らかとすることである。我々はこれまで、胃がんにおいて全遺伝子解析を行い、胃がんにおける分子生物学的特徴の性差を報告してきた。胃がんにおいて、男性ではTP53変異が有意に多く、女性ではCDH1、PIK3CA、ERBB3、TRRAP、KRAS変異が有意に多かった。また、発現変動遺伝子(DEG)の変化をみると、女性の腫瘍細胞では精子形成に影響するとされるDAZファミリーおよび糖代謝に関与するGYG2の発現が上昇していた。18種の遺伝子の発現からクラスタリングを行い(18-gene T cell signature)、T cell inflamed phenotypeとNon Tcell inflamed phenotypeに分類したところ、T cell inflamed phenotypeの割合に男女差は認めなかったが、T-cell inflamed phenotypeの生存転帰は女性で有意に不良であった。
2: おおむね順調に進展している
現在、我々は胃がんにおける分子生物学的特徴の性差を中心に研究を行っている。胃がんにおける生物学的特徴の性差を明らかとすることができれば、化学療法の選択にも影響を与えうる結果を得る可能性がある。また、胃がんにおいては18-gene T cell signatureによる分類で、T cell inflamed phenotypeの割合に男女差は認めなかったが生存転帰は女性で有意に不良であったため、抗腫瘍免疫に性差があることが示唆された。その原因を明らかとすることができれば、食道がんにおける抗腫瘍免疫について有力な先行研究となりうる。胃がんにおける研究を解明する一方で、食道がんにおけるT cell signatureの意義についても進めていかなければならない。食道がんにおけるT cell signatureが生存に与える影響や、性差を明らかとすることができれば、食道がんにおける抗腫瘍免疫について解明することが可能になると考えらえる。
食道がんに対して食道切除を施行する患者を対象とし、凍結標本および末梢血サンプルを採取する。また、手術時に摘出した標本から凍結標本を採取する。過去に手術を施行し、凍結標本を採取した症例からRNAを抽出し、マイクロアレイで18-gene T cell signatureを解析する。食道がんにおけるT cell inflamed phenotypeでの臨床病理学的特徴や再発の有無、生存転帰について解析する。また、前向きに凍結標本および末梢血サンプルを集積し、T-cell inflamed phenotypeと末梢血リンパ球分画の関連を明らかとする。臨床病理学的因子の評価の際には、当科の保有する500例の食道がんデータベースを用いた統合解析を行う。我々は食道がん術前の患者から末梢血を採取し、末梢血から採取したリンパ球のPD-1発現と切除標本の腫瘍細胞のPD-1発現の相関みた研究を報告しており、本研究での症例集積、解析にも役立てることができると考えている。
理由:試薬、消耗品については、医局内保管のものを使用することができた。また、旅費については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により学会開催形式がハイブリッド開催へ変更となる事が多く出張が減った為、未使用額が生じた。使用計画:試薬、消耗品の購入費に充てたいと考える。また、最新の研究情報を得るため、及び、研究成果発表のための学会出張旅費にも充てたいと考える。
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