研究課題
食道癌は癌関連死の原因として7番目に多い予後不良な疾患である。その中でも食道扁平上皮癌は本邦でも食道癌の9割を占める組織型である。近年、腫瘍免疫微小環境における免疫細胞の働きの解明が進み免疫治療の進歩が著しい。食道扁平上皮癌に対し、抗PD-1阻害剤の一つであるNivolumabの有用性が示され本邦で治療薬として承認された[ATTRACTION-2試験: Lancet Oncol. 2017, ATTRACTION-3試験: Lancet Oncol. 2019]。また2017年5月米国にて、抗PD-1阻害剤の一つであるPemblorizumabが、MSI-highまたはミスマッチ修復機構の欠損(deficient mismatch repair: dMMR) の固形がんを対象に承認され[NEJM, 2017, J Clin Oncol, 2019]、本邦でも2018年12月に承認された。しかしながら、食道扁平上皮癌においてNivolumabやPemblorizumabが十分な効果をもたらす症例は限られており、PD-L1やMSI-Hは必ずしもバイオマーカーとなりえず免疫回避機構は未だ明らかではない。研究代表者は公益財団法人がん研究会において、食道胃接合部腺癌における免疫回避機構に関する研究を進め、免疫学的特徴が明らではないMSI-L腫瘍はMSSの腫瘍と比較し予後がよく、免疫学的・遺伝子学的特徴が異なるという知見を得て、first authorとしてInternational journal of cancer (2020)に報告した。また国内複数の施設にて臨床検体・データを用いた解析を行っており[Ann Surg. 2019, Int J Cancer. 2018]、現在は熊本大学大学消化器外科学にて食道扁平上皮癌の新たな治療法の確立をめざし網羅的遺伝子解析を進めている。
4: 遅れている
現在、我々は食道扁平上皮癌における腫瘍免疫微小環境を中心に研究を行っている。これまで食道胃接合部腺癌において行ってきた実験手技や経験を活用し、食道扁平上皮癌においても、腫瘍免疫において主要な役割を占める免疫細胞マーカーを評価する。細胞障害性T細胞に関与する分子マーカーとして、CD8, PD1, TIM3, LAG3, TIGIT, T-bet, GATA-3を、制御性T細胞に関与する分子マーカーとしてFOXP3, CTLA4を、マクロファージに関与する分子マーカーとしてCD204, CD38, PD-L1を、樹状細胞に関するマーカーとしてIDO1を、腫瘍細胞に関する分子マーカーとしてPD-L1を免疫染色で評価する。免疫染色に関し、薄切の準備段階で技術者が不在となり大幅に計画が遅くなった。また、多くのマーカーの条件設定にも時間を要している状況。
本施設において食道扁平上皮癌に対し2005年4月から2015年12月までに手術を施行した切除検体495例を用い、免疫細胞マーカーの評価・解析を継続する。また、Laser microdissection法にて採取されたDNAを用いたExome解析を行う。Exome解析に十分なDNA量を保管している10例を選択し、選択した10例のDNA quality評価後、Next Ultra II DNA Library Prep Kit とNext Multiplex Oligosを用いてサンプル調整を行いHiSeq2500でのExome解析を行う。得られた情報から変異や増幅・欠失の解析を行う (Software; Mutect2, GISTIC解析等)。上記抽出した免疫因子と相関する癌細胞の遺伝子変化を抽出し、全495症例でreal-time PCR法で検出する。食道扁平上皮癌における互いに相関する免疫学的因子と癌細胞の遺伝子変化を、全495例を対象に臨床データとの統合解析を行うことで、これまで明らかにされていない食道扁平上皮癌の腫瘍免疫回避機構を明らかにし報告する。
理由:試薬、消耗品については、医局内保管のものを使用することができた。また、旅費については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により学会開催形式がハイブリッド開催へ変更となる事が多く出張が減った為、未使用額が生じた。使用計画:試薬、消耗品の購入費に充てたいと考える。また、最新の研究情報を得るため、及び、研究成果発表のための学会出張旅費にも充てたいと考える。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
International Journal of Cancer
巻: 148 ページ: 1260~1275
10.1002/ijc.33322