癌細胞の代謝機構には正常細胞と異なる点が多くあるが、その中でも好気的条件下における乳酸産生(Warburg効果)は最も有名である。肝癌由来細胞株Huh-7において、解糖系からTCAサイクルへ誘導するForced OXPHOS (強制的酸化的リン酸化)と呼ばれる無グルコース・ガラクトース添加培地を用いた際に、フェロトーシス感受性が亢進し、少量のブチオニンスルホキシミン(BSO)でフェロトーシスを誘導できることが明らかになった。既存の薬剤のうちで、上記の培地条件と同様の代謝変化をもたらすものとして、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ阻害剤であるジクロロ酢酸ナトリウム(DCA)を見出した。 RNA-Seqでは、DCAの添加によって複数のアミノ酸トランスポーターの遺伝子発現上昇を伴い、アミノ酸欠乏様の遺伝子発現変化を認めた。メタボロミクスでは、細胞内アミノ酸濃度の全般的な上昇を認めた。 DCAの投与によって小胞体ストレスシグナル経路の1つであるPERK、ATF4、CHAC1のmRNA及びタンパクレベルでの発現上昇を認め、DCA+BSOによってもたらされるフェロトーシスはPERK、ATF4、CHAC1の欠損細胞で抑制され、小胞体ストレスシグナルを介することが示された。 DCAによるフェロトーシス増強はSKHep1やHLEなどの低分化・未分化肝癌細胞株でも認められた。また、DCAによるフェロトーシス感受性増強は、BSO以外にxCT阻害剤であるErastinでも認められたのに対し、GPX4阻害剤であるRSL-3では誘導効果はなく、細胞内GSH濃度と密接に関係することが示唆された。
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