研究課題/領域番号 |
21K16487
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研究機関 | 公益財団法人田附興風会 |
研究代表者 |
奥知 慶久 公益財団法人田附興風会, 医学研究所 腫瘍研究部, 研究員 (50852422)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 腫瘍発生 / 予防薬 / ヒトオルガノイド / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
申請者は大腸癌発生の土壌となる遺伝子変化についての研究を進めている。申請者は先行研究において、大腸癌に至る前の、未だ良性の段階にある前癌病変においてすでに発現が上昇あるいは低下している遺伝子群を同定しており、それらをヒト大腸癌サンプルにおいて解析するために臨床検体の収集を行っている。昨年もさらに5例のサンプル収集を進め、現時点で45例のサンプル収集および保管が完了するに至っている。 それらからCTOS法によりオルガノイドを樹立することにも成功していて、成功率も上昇しKRAS・BRAF等の遺伝子変異がそれらの成功率にも寄与している可能性があることが分かってきた。それら樹立したオルガノイドを使用して、先行研究において同定していた遺伝子群の発現量のチェックをqPCRにて行っており、一部の遺伝子に発現変化が確認できてきている。極めて興味深いことに、KRAS/BRAFなど一般的に悪性度が高いと言われるオルガノイドではこれらの遺伝子発現の変化量が大きくなかった。 また、樹立したオルガノイドの免疫染色も可能となってきており、より進行した癌から樹立したオルガノイドにて間葉系細胞のマーカーが強く発現していることが判明し、EMTの一つの証拠と考えられる。また、細胞内部のシグナル伝達経路に与える影響についても解析を進められてきている。 実際には予定よりも研究の進捗は遅れており、オルガノイド培養の試薬がメーカーからの供給不足や停止になっていた時期があること、患者サンプルの収集が想定より進んでいないことなどが挙げられる。 遺伝子発現解析をすすめるため、腫瘍細胞に対するコントロールとして使用する正常腸管粘膜からの培養系の樹立を現在試みている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ヒト大腸癌からのオルガノイド培養系は確立されつつあり、免疫染色による発現チェックが進みつつあるなど順調に進んでいる部分もあるが、そのコントロールとなる正常腸管粘膜からの培養系が確立できていないことが進捗が遅延している一番の原因である。加えて、ヒト大腸癌の臨床検体収集が進んでおらず、研究に使用するサンプルが十分に確保できていないことも挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
ようやくオルガノイド培養試薬の供給が安定されつつあるので、現在のオルガノイド培養系をさらに拡大するために十分な臨床サンプルの収集を進める必要がある。喫緊の課題はコントロールとなる正常腸管粘膜からの培養系の確立をすすめることで、これによってRNA seqによる遺伝子発現の網羅的な解析の土壌ができる。またKRAS/BRAFなどの遺伝子変異の情報が臨床情報として調べられたものだけになっているため、すでに収集されたオルガノイドサンプルでもそれら遺伝子変異について確認する必要がある。これら遺伝子変異の情報が明らかとなれば、正常腸管粘膜から作成したオルガノイドでもこれまでの実験同様qPCRなどで、ターゲットとしている遺伝子発現の変化量を直接解析したいと考えている。臨床サンプルの収集があまり進まないことも想定して、新たな臨床サンプルに依らない、これまでストックしてきた臨床サンプルを活用した実験の進め方を模索している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に予定していた学会参加等ができなかったことにより学内研究費の余剰があったことからそちらを優先的に使用していたことにより旅費の支出が結果としてなかったことがまず挙げられる。二点目として、想定よりも臨床サンプルの収集が進まなかったため、これまでの試薬のストックの範囲内で研究を進められてしまったことから科研費からの支出がない形となった。次年度は臨床サンプルの収集に依らない形での研究の推進も視野に入れている。
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