人工多能性幹細胞(iPSC)から分化誘導された心筋細胞は未熟型であることから、当該心筋細胞を薬剤評価に活用したり、細胞治療に用いたりする際、適した細胞の性質を有しているかどうかは疑義を生じる状態である。現状では、心筋細胞をin vitroで成熟化させる確立した培養法はなく、本研究ではその培養法の開発を目指して、本年度は2つの培養法(Traveling wave(TW)の有無、回転浮遊培養の有無)を複合させて培養した細胞の評価、解析に取組んだ。 培養基材にはポリ乳酸コグリコール酸のナノファイバーを用いた。PLGAナノファイバー上に、iPSC由来心筋細胞(cTnT陽性細胞率として64.2%~91.2%)を播種し、7日後に回転浮遊培養系へ移行し、1週間の回転浮遊培養を行った。培養細胞からRNAを抽出し、網羅的解析を実施した。培養期間中は心筋細胞の拍動回数及び収縮速度を観測し、培養最終日のRNAを網羅的に解析すると、心筋細胞の成熟化の候補遺伝子(MYH7、KCNJ2、TNNI3、TNNC1、ATP2A2、LMNA)の変動は、培養期間を通じて静置培養を行った細胞を基準として、TW及び回転浮遊培養を行った細胞で、前述の因子順に1.99±1.09、1.02±0.42、1.81±1.01、1.73±0.28、1.95±0.50、1.12±0.11倍であり、TWのみの細胞で、1.12±0.50、1.59±0.31、2.22±0.92、1.79±0.77、1.31±0.64、1.57±0.18であったことから、TWを発生させた細胞において心筋成熟の可能性が示唆された。なお、静置培養後に回転浮遊培養を行った細胞では、0.77±0.19、1.53±0.10、0.88±0.30、0.95±0.12、1.11±0.19、1.00±0.14であったことから、心筋成熟への寄与は限定的であると考えられた。
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