昨年度(2022年度)途中から研究内容を変更し、胎児動脈管の血管平滑筋細胞を採取してスフェロイド(3D化)することにより、シャーレ培養(2D)状態よりin vivo環境に近い形態で細胞特性を観察してきた。細胞外基質や細胞間接着関連タンパク質のmRNA発現を観察したところ、スフェロイドは2Dと実際の組織の中間的発現を呈していた。また薬剤反応性をみる実験では、プロスタグランジン(PGE1)で刺激すると、スフェロイドは2D環境よりもヒアルロン酸の産生量が低下しており、スフェロイドの横断面をヒアルロン酸結合タンパク質抗体で免疫染色したところ、スフェロイドの周囲に発現が認められたことで、産生量は細胞の表面積に関連していることが示され、本研究は一旦終了した。 またプロスタグランジン刺激の実験においては、胎児の動脈管以外に、主肺動脈、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈の血管平滑筋細胞にも行ったが、ここで新たな発見があった。これまでプロスタグランジン刺激によるヒアルロン酸産生は動脈管血管平滑筋細胞に特異的な性質をされてきたが、我々の実験では主肺動脈および上行大動脈血管平滑筋細胞でもヒアルロン酸の産生が再現性をもってみられ、しかも産生量は動脈管よりも多いことが判明した。このことは動脈瘤化や大動脈解離のエントリーの好発部位という上行大動脈の特性を考慮すると、血管平滑筋細胞の発生起源と脱分化型誘導におけるPGE2レセプター発現が関連していることが示唆されるため、今年度下半期は上行大動脈の血管平滑筋細胞のPGE2レセプターの発現をPCR法と免疫染色法で観察を行ってきた。
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