研究実績の概要 |
本研究は悪性胸膜中皮腫における幹細胞マーカーの発現を免疫組織化学的に検索し、その臨床病理学的意義の確立を行う事が目的の一つである。既報の研究データよりも肉腫成分を含む症例を多く収集することが可能であり、悪性胸膜中皮腫ホルマリン固定標本98例(上皮/二相/肉腫型: 46/34/18)を対象とした。免疫逃避関連幹細胞マーカー(CD26、CD47)、既知の中皮腫予後因子(Ki-67(MIB-1), BAP-1, PD-L1)、予備研究で評価した幹細胞マーカー(Klf-4, c-Myc, CD90, CD13)についての発現を免疫組織学的に検索し、その発現レベルをH-Score(Σ発現強度x腫瘍占有率)で評価、臨床病理学的因子との関連性を解析した。Klf-4、c-Mycは全ての組織亜型で70-80%と比較的多くの中皮腫に陽性となったが、組織亜型による発現の差はなかった。CD47は上皮型に、CD90は、二相型、肉腫型に有意に高い頻度で発現していた。OSの判明した56例において、CD90陽性、MIB-1陽性(≧10)、PD-L1陰性症例(TPS=0)が有意に予後不良であった。乳癌(basal-like breast cancer)、食道癌、肝細胞癌などで、発現と予後との関連性が示されているCD90が予後マーカーとなる可能性が示唆され、CD90が中皮腫の一部に発現し、化学療法抵抗性の中皮腫細胞株において、CD90の発現増加が報告されているが、予後との関連性を検討したのは本研究が初めてである。現在、免疫逃避関連幹細胞マーカー(FGF4、CXCR4)、Hippoシグ ナル関連因子(TAZ、YAP)の抗体を購入し、追加染色を行なっている。 また、悪性胸膜中皮腫細胞におけるHippoシグナル経路関連因子が、中皮腫細胞株に与える影響と、免疫逃避機構に関わる幹細胞マーカー蛋白の発現に及ぼす影響、その関連性を解析することがもう一つの研究目的だが、こちらは来年度に進める方針である。
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今後の研究の推進方策 |
悪性胸膜中皮腫におけるこれまで行なった癌幹細胞マーカーの発現評価に、免疫逃避関連幹細胞マーカー(FGF4、CXCR4)、Hippoシグ ナル関連因子(TAZ、YAP)、他にEMT評価となるE-Cadherin 、N-Cadherinの追加染色を行ない、総合的な評価を行い、組織亜型と予後との関連性を検討する。 また、悪性中皮腫細胞株(H2052, 211H, H28, H2452)において、TAZに対するsiRNA(HSS119545, HSS119546)およびYAPに対するsiRNA(ID 107951, ID 114602)を使用し、RNAiMAXを用いて中皮腫細胞にtransfectionを行い、YAP/TAZ遺伝子発現減弱の確認を行うとともに、細胞増殖速度・幹細胞マーカーの発現形式を評価することを進めたい。
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