研究課題
Lymphocyte antigen 6(Ly6)ファミリーの一員であるLY6Dは、肺癌を含む様々な癌腫において過剰発現していることが知られているが、その意義は不明である。本研究の目的は、非小細胞肺癌におけるLY6D発現の意義と機能を解明することである。マウス正常肺から単離した直後の肺上皮細胞と、オルガノイド培養中の細胞の遺伝子発現を比較したところ、LY6Dがオルガノイド培養中のp63陽性肺基底細胞でのみ高発現していることを見出した。肺基底細胞は肺における組織幹細胞の一つであり、正常肺にも一定数存在することが知られている。しかし、肺から単離した直後の肺上皮細胞にはLY6Dの発現が認められなかったことから、LY6Dは増殖中の肺基底細胞においてのみ特異的に発現していることが示唆された。また、公開されているヒト肺組織を用いたシングルセルRNAシークエンスデータを解析したところ、これまで一様な集団だと考えられてきた肺基底細胞には増殖や分化のステータスによっていくつかのサブグループが存在し、増殖・分化状態にある肺基底細胞の集団においてLY6D遺伝子が特異的に高発現していることがわかった。さらに、熊本大学呼吸器外科で管理している61例の原発性肺癌手術検体において、LY6Dの発現を免疫組織学的に評価し、術後再発予後との相関を解析した。その結果、腫瘍でLY6Dが強く発現している17例は、LY6D発現が弱い43例と比較して有意に術後無再発生存期間が短縮していることを発見した (ハザード比:4.385、P < 0.01)。これらの結果より、肺の組織幹細胞である肺基底細胞において、LY6D発現が増殖に関与している可能性が示唆された。また、独自の臨床検体を用いた解析からも、LY6D発現が肺癌における予後不良因子であることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
RNAシーケンシングに向けた細胞調整およびRNA精製の条件検討を進めており、準備は順調に進んでいる。現在ドキシサイクリン投与によってLY6D発現を調節できるTet on systemの構築を行なっており、LY6Dをコンディショナルにノックダウンもしくは過剰発現できるウイルスベクターを作成している。また、本研究と関連してC-JUN N-terminal Kinaseが固形癌において免疫抑制的な腫瘍微小環境の形成に関わることを見出し、論文報告を行なった。
LY6Dのコンディショナルなノックダウンまたは過剰発現が可能な細胞株を樹立し次第、マウスへの移植を行い腫瘍におけるLY6Dの役割を生体内で評価する。また、RNAシーケンシングによって、LY6Dの下流で働く分子シグナルの同定を行う。
当初予定していた旅費と人件費を使用しなかったため。次年度に合算して使用できる見込み。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
JNCI: Journal of the National Cancer Institute
巻: 114 ページ: 97~108
10.1093/jnci/djab128