これまでに得た知見から、肺がんは高いオートファジー活性を有しており、これが腫瘍細胞の生存・ストレス耐性に寄与している可能性がある。また、定説に反し、肺がんではミトコンドリア好気呼吸(TCA/電子伝達系)が、正常組織と比べむしろ亢進しており、これが肺がんのエネルギー戦略を支えている可能性が出てきた。本研究では、それらの代謝特性が、肺がんの新たな治療標的となり得るかを検証するため、種々の取り組みを行った。 前年度の解析において、肺がん腫瘍増殖におけるオートファジーの重要性が判明していた。オートファジーは栄養欠乏状態への生存応答であることから、オートファジー欠損と血管新生阻害との相乗効果について検討することにした。いくつかの非小細胞肺がん細胞(親株、およびゲノム編集によるオートファジー因子ATG7の欠損株)を免疫不全マウスに移植し、VEGF(血管新生誘導性の増殖因子)に対する中和抗体(ベバシズマブ)を投与し、腫瘍レスポンスを観察した。ベバシズマブは、親株およびATG7ノックアウト株の両方で、移植腫瘍の増大を遅延させた。VEGF阻害とATG7ノックアウトとの間に相乗効果があるか否か検討したが、少なくとも、統計的に有意なほどではなかった。その原因として、VEGF阻害の効果に比して、ATG7欠損単独の効果があまりに大きいことが考えられた。そこで、ATG7欠損の効果が比較的穏やかな肺がん細胞株での再実験に着手した。
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