研究課題/領域番号 |
21K16569
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大網 毅彦 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (70527887)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管透過性 / IL-22 / 腸内細菌叢 / 盲腸結紮穿孔モデル / 集中治療 |
研究実績の概要 |
敗血症において,腸管は炎症を惹起して病態を増悪させうる”モーター”として注目されている。バリア機能の低下した腸管上皮細胞や活性化した腸管の免疫担当細胞,バランスの乱れた腸内細菌叢が臓器不全の進行を促進しうる。腸管免疫担当細胞から分泌されるinterleukin (IL)-22は腸管上皮の再生を促進し,抗菌ペプチドの産生誘導により腸内細菌叢に好影響を与える。炎症性腸疾患の分野ではIL-22の生体保護的な役割が明らかにされている一方で,敗血症病態でIL-22に注目して腸管恒常性の破綻を検討した研究はない。今回,敗血症モデルである盲腸結紮穿孔(CLP)手術を施行したマウスから小腸を採取し,パイエル板や腸管上皮細胞間T細胞,粘膜固有層に存在する免疫担当細胞を分離した上でIL-22,IL-22 binding protein(BP)抗体で染色して白血球の分画ごとにIL-22関連蛋白の陽性細胞数を解析する。そして,IL-22の制御を企図した遺伝子欠損マウスを用いて敗血症モデルを作成し,IL-22関連蛋白の機能解析を行う。 現在CLPモデルマウスの小腸を採取してCD4T細胞と自然リンパ球(ILC)をIL-22抗体で染色してフローサイトメトリーで解析する実験に取り組んでいる。また,IL-22の制御を企図した遺伝子欠損マウスとしてIL-22欠損マウスの繁殖を進め,現在生存率解析を行なっている。今後,CLP手術を行ったコントロールマウスとIL-22欠損マウスを用いて生存率解析や腸管透過性測定,血中サイトカイン測定,腸内細菌叢解析を行う。一方で,IL-22の抑制系蛋白であるIL-22BPを欠損させたIL-22BPマウスに関しても繁殖を行っており,十分な数のマウスが確保できしだい実験を進める予定である。これらの実験結果をもとに,敗血症病態におけるIL-22の腸管恒常性への関与を解明し,IL-22の制御による敗血症の治療につなげることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
IL-22の制御を企図した遺伝子欠損マウスとしてIL-22欠損マウスの繁殖を行うために協力施設から凍結受精卵の供与を受けたが,偽妊娠マウスへの受精卵移植後に生まれたマウスの繁殖が成立しなかった。そのため,協力施設から精巣上体の供与を受け,人工授精後に繁殖することに成功した。繁殖に進むまでの期間が想定以上にかかったため,進捗状況は「やや遅れている」と判断した。現在IL-22欠損マウスを用いた実験とIL-22BP欠損マウスの繁殖を行なっており,計画した実験を進めていく。そして,一定の成果を海外誌に報告するために論文投稿を行う。
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトの実験結果から,IL-22及びIL-22BP欠損マウスのいずれかで生存率改善もしくは生体に好ましい病態生理学的な変化が得られる場合には,敗血症治療への応用を目指してIL-22関連蛋白の制御を企図した薬剤もしくは抗体を用いた実験に進む。そして,IL-22の制御に最適な薬剤の投与量を検証したうえで,マウス敗血症モデルで実際に腸管透過性や腸内細菌叢,生存率に影響を及ぼすかどうかについて詳細な検討を加える。これらの結果を元に,マウス敗血症モデルでの結果がヒトに応用可能かどうかを調べるために,将来的には患者検体からのヒト培養細胞などを用いて,敗血症環境でのIL-22の制御が行われるかについての詳細な検討へと発展させる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス繁殖の遅れにより本来行うべき実験に遅滞が生じたが,2023年度には実験を行う予定である。 実験で用いる試薬(各種抗体等)やチューブ類の購入に20万円の予算を計上。腸内細菌叢解析の委託費として20万円の予算を計上。また,マウスの飼育に必要な飼料や設備費に20万円の予算を計上した。さらに本研究の成果を海外で発表するための渡航費や宿泊費,学会参加費として30万円の予算を計上した。英文誌への投稿費用,英文校正費用として20万円の予算を計上した。
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