本研究では、敗血症に伴う精神障害の回復に脳内に増加した制御性T細胞(Treg)が関与するのか、また、そのTregはどのように脳に増加するのか、について明らかにしようとした。敗血症誘導後の脳内においてTregを経過時間的にモニタリングしたところ、20日目以降に増加を開始し、少なくとも誘導から60日目までは増加することが示された。Tregが脳内にどのように増加したかを、自己増殖、分化、浸潤の3点から検討した。自己増殖については、細胞増殖マーカーであるKi67発現を解析した。その結果、 Tregを含む脳中に存在するCD4+T細胞は一様にKi67発現が低く、自己増殖能が低いことが示唆された。分化について解析する過程において、敗血症誘導後10日目では、脳内にはNaive CD4+T細胞が増加することが分かった。また、経過時間的なサイトカインの発現解析から、Tregの分化に必須なInterleukin(IL)-10やTransforming growth factorβ、機能維持や生存に必須なIL-2の発現が上昇していた。敗血症の慢性期における脳は、Tregへの分化、維持、生存、機能に適したサイトカイン環境であることが示唆された。今後、より詳細な検討が必要である。浸潤においては、脳の所属リンパ節である頸部リンパ節に注目した。敗血症誘導から20日目の頸部リンパ節のTregを解析したところ、C-X-C motif chemokine receptor (CXCR)-3の発現が上昇していた。同時期において、脳ではそのリガンドであるCXCL-9および-10の発現が上昇しており、CXCL-9/CXCL-10/CXCR3 axisを介して、敗血症後、Tregが脳内に増加することが示唆された。敗血症マウスの頸部リンパ節を除去したところ、脳中のTreg増加が抑制され、うつ様行動の回復も遅延した。
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