本研究においては、心肺蘇生中における生理学的アプローチを用いた心肺蘇生法の改善を目指す研究を実施した。その結果、心肺蘇生中の大腿動静脈圧測定により、各患者で異なる循環状態が明らかになり、均一な蘇生法では全ての患者に効果的でないことが示された。さらに、動静脈の圧差が大きければ心拍再開率が高く、静脈圧が高い場合には心拍再開が認められなかったことから、動脈圧が静脈圧よりも高い生理的な血行動態の維持が重要であると判明した。 最終年にはトロントで3ヶ月間の短期渡航を行い、現地の共同研究者とともに、新たな生理学的デバイスの開発に取り組む国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)の獲得へと繋げることができた。このデバイスは非侵襲的な頸動静脈血流モニタリング技術を使用し、従来の侵襲的な方法に代わる革新的な手法となる。これにより、心肺蘇生中の個々の患者に合わせたオーダーメイドの蘇生法が可能となり、予後の改善に寄与する証拠を生み出すことを目指す。 また、現地の蘇生科学領域におけるトップ研究者との共同研究により、動物実験の手法や国際多施設共同研究への発展を図ることができた。この経験を通じて、非侵襲的頸動静脈血流モニタリング技術を活用した蘇生循環の評価と、その結果のエビデンスを国際的に確立する基盤が築かれた。これにより、個々の患者に最適な蘇生法の実施が予後改善に寄与することが期待される。 他の成果として、心肺蘇生中の生理学的アプローチやオーダーメイドの蘇生法に関する論文8本を査読ありの英文誌で発表し、近赤外線モニタの測定方法の改良に関する論文を含む一連の研究が、心肺蘇生時の新たな知見とその重要性を明らかにした。これらの成果は今後の心肺蘇生ガイドラインや臨床実践に寄与することが期待される。
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