研究課題/領域番号 |
21K16584
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
今枝 太郎 千葉大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30598230)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心停止後 / 心停止後症候群 / 神経学的予後予測 |
研究実績の概要 |
心停止患者に対する治療は近年進歩しており,ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:人工心肺補助装置を用いた蘇生術)や脳低温療法を含む包括的な集中治療が,心停止患者の転帰改善に寄与しているとして注目されている. 費用対効果や倫理的側面を考慮し,人工心肺補助装置の使用や脳低温療法などの高価な治療の適応を的確に判断する早期の神経学的予後予測の重要性が高まってきており,画像検査や電気生理学的検査とともに新たなバイオマーカーの探索が必要とされている. 今回,心停止後の神経学的予後を,より早期により高い精度で予測可能なバイオマーカーの発見と,心停止後の神経学的予後に大きく関与する全身の臓器の虚血/再灌流障害により引き起こされる心停止後症候群の病態解明に取り組んでいる.現在,集中治療室へ入室した成人の心停止後患者のサンプルを,質量分析装置(LTQ Orbitrap XL, Thermo SCIENTIFIC社)を用いてタンパク質同定解析を行い神経学的予後不良群に有意に検出されるタンパク質の同定まで終了した.患者血漿中のタンパク質をSDS-PAGEにより分子量別に分離し,SDS-PAGE後のゲルはクーマシー染色で可視化し,そのバンドを40分割しtrypsinを用いてゲル内消化を行なった.その後,質量分析装置を用いてタンパク質動態解析を行い,タンパク質の網羅的解析を行なった.その結果,神経学的予後不良群でのみ検出されたタンパク質を,ELISA法を用いて神経学的予後良好群と予後不良群間で比較検討し,神経学的予後不良群で有意に検出されるタンパク質を同定した.現在,臨床検体でのValidationを実施中であり,今後は臨床検体で得られたタンパク質の機能解析を動物実験にて行い,心停止後症候群の病態解明および新規治療方法を開発することにもつなげていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響もあり, 動物実験の開始が予定より遅れてはいるものの,臨床検体を用いた実験や解析は予定通り進んでいる.コロナ禍における研究の体制も整いつつあり,令和4年度,5年度で予定している実験を確実に進めていけると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度以降は, 心停止後神経学的予後不良群で有意に検出されるタンパク質の機能解析を行うための動物実験およびラットの心停止モデルを作成しその血液検体のプロテオミクス解析を行なっていく.動物実験を用いて発見したターゲットの遺伝子をknock down(抑制),knock out(欠損),over expression(過剰発現)し,心停止条件でのターゲット遺伝子の役割を明らかにする. ラットの心室細動による心停止モデルを作成し,①健常ラット群(5検体),②心停止時間が5分間の心停止ラット群(5検体),③心停止蘇生時間が15分間の心停止ラット群(5検体)の3群にわけ,各々の群の血液検体をプロテオミクス解析する.なお,②5分間心停止ラット群はCPC(Cerebral Performance Categories)1,2を,③15分間心停止ラット群は,CPC3~5の患者群を想定し設定した.また各々の群の心停止から蘇生後7日間経過観察を行い,脳機能検査や行動実験および生存率を調査する. さらには, 得られた結果を取りまとめ, 成果の発表を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響もあり, 動物実験の開始が予定より遅れており,2021年度は臨床検体を用いた実験や解析しか行うことができなかったため次年度使用額が生じたが,2022年度以降はコロナ禍における研究の体制も整いつつあり動物実験を行う目処もたってきたので必要なタンパク質抽出用試薬,蛍光抗体実験試薬,SDS-PAGE試薬,電気泳動用各種試薬などの薬品・消耗品およびラットの購入のためにあてる予定である.
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