研究実績の概要 |
心停止患者に対する治療は近年進歩しておりECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:人工心肺補助装置を用いた蘇生術)や脳低温療法を含む包括的な集中治療が,心停止患者の転帰改善に寄与しているとして注目されている. 費用対効果や倫理的側面を考慮し人工心肺補助装置の使用や脳低温療法などの高価な治療の適応を的確に判断する早期の神経学的予後予測の重要性が高まってきており,画像検査や電気生理学的検査とともに新たなバイオマーカーの探索が必要とされている. 今回,心停止後の神経学的予後を,より早期により高い精度で予測可能なバイオマーカーの発見と心停止後の神経学的予後に大きく関与する全身の臓器の虚血/再灌流障害により引き起こされる心停止後症候群の病態解明に取り組んだ.集中治療室へ入室した成人の心停止後患者の血漿中のタンパク質をSDS-PAGEにより分子量別に分離し,SDS-PAGE後のゲルはクーマシー染色で可視化し,そのバンドを40分割しtrypsinを用いてゲル内消化を行なった上で,質量分析装置を用いてタンパク質動態解析を行い,タンパク質の網羅的解析を行なった.神経学的予後良好群(CPC 1-2)と予後不良群(CPC 3-5)の蘇生後1時間以内の血漿検体を質量分析装置を用いてタンパク質の網羅的解析を行い,予後不良群でのみSerpin B1(Leukocyte elastase inhibitor), Fatty acid-binding protein 2(I-FABP)が発見された. その後,これらのタンパク質を臨床検体を用いてvalidationを施行した.ELISA法を用いて神経学的予後良好群(n=27)と予後不良群(n=31)とで比較検討した結果, 神経学的予後不良群において両タンパク質ともに,統計学的有意差をもって高値であった.
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