CLIC2は細胞内に局在する塩化物イオンチャネルタンパク質ファミリーの一種として見出されたもので、ヒトとラットには存在するがマウスにはない遺伝子である。イオンチャネルタンパク質とされながらも、そのチャネル形成への関与については疑問の点が多く、生物学的意義は不明であった。本研究では、我々が創出したラットグリオーマ細胞C6をWistarラット新生仔背部皮下に移植すると4週間以内に肺転移が生じるモデルにおいて、背部の原発巣と肺転移巣の腫瘍細胞の遺伝子発現をRNAseqで解析し、CLIC2が原発巣で高発現していることに着目した。上記肺転移モデルに加え、C6細胞をWistarラット新生仔脳内に移植することで作成する脳腫瘍モデルで、C6細胞にCLIC2を強制発現させると予後が大きく改善した。CLIC2はC6細胞内ではゴルジ体または分泌顆粒に局在し、細胞外に分泌されること、MMP14に結合しその活性を抑制することでがん細胞の転移浸潤を抑制することを明らかにし、遺伝子組み換えCLIC2タンパク質は、ヒト悪性グリオーマ細胞株の細胞外マトリックス破壊による浸潤能を抑制することを示した。これらの結果から、MMP14の安全な阻害剤としての研究を進め、同じCLICファミリーであるCLIC4にはMMP14活性がなく、逆に上昇させることを確認した。 しかし、正常Wistarラット及びヒト脳組織においてCLIC2は主にマイクログリアに発現しており、CLIC2タンパクの添加で貪食能および浸潤能の亢進やMMP9が活性化され、CLIC2ノックダウンによってそれらを抑制することが確認された。 悪性腫瘍細胞で高発現しているCLIC4の発現抑制と同時にCLIC2の発現を誘導することで悪性腫瘍のさらなる転移浸潤を抑制することに加え、脳腫瘍におけるマイクログリアでのCLIC2の機能解明を目指して研究を継続している。
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