髄芽腫(Medulloblastoma; MB)は代表的な小児悪性脳腫瘍であり進行が早く、脊髄を含む中枢神経系に播種性に進展することが特徴である。ドライバー遺伝子が明らかとなっていないGroup3/4は高率に転移・播種をきたし予後不良である。さらにMYC/MYCN遺伝子の増幅・過剰発現があるMBは予後不良であり、治療標的として注目されている。 我々はこれまでに、悪性脳腫瘍である膠芽腫(Glioblastoma:GBM)の増殖を抑制する血液脳関門を通過する新たな治療薬候補としてDifferentiation inducing factor-1(DIF-1)を見出した。DIF-1は様々な癌種でその抗腫瘍効果が報告されている。 本研究ではDIF-1のMBの新規治療としての可能性を検証した。MYC遺伝子増幅の有無両方のMB細胞株を選定し、そのMyc発現を検証した。すでにBET-bromodomain阻害(BETi)によりMyc増幅MB細胞増殖が抑制されることは報告されていたため、BETiであるJQ1とDIF-1の細胞増殖抑制効果を検討した。DIF-1はMB細胞の増殖を効果的に抑制し、かつDIF-1をMB細胞株に処理し、c-Myc、n-Myc発現が減弱することも明らかにした。この発現抑制は転写抑制であることを明らかにした。更にDIF-1によるMB細胞株増殖抑制効果はMYC増幅を有する細胞株に顕著であることを明らかにした。さらにこの細胞増殖抑制の機序の一つはアポトーシスであることを明らかにした。 このDIF-1によるMYC転写抑制がMYC遺伝子増幅細胞の増殖抑制の機序と考え、siRNAを用いてMYCノックダウンを行い細胞増殖を検証したが、MYCノックダウンはMYC増幅の有無に関わらず細胞増殖を抑制しなかった。DIF-1による細胞増殖抑制効果はMYC転写抑制の関与は少ないことが判明した。
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