軟骨には、体内時計(PERやBMAL1などの複数の時計遺伝子によって構成される分子機構)が存在する。これまで時計遺伝子ノックアウトマウスの作成や外的光因子の変化によってもたらされる体内時計の破綻が、軟骨の変性を招き、変形性関節症の誘因となることがすでに明らかにされている。 本研究では、時計遺伝子(PER2遺伝子)に発光レポーター(Luciferase遺伝子)を挿入し、体内時計の状態を発光量の変化として可視化できる、体内時計レポーターマウスを用いた。このマウスから採取した大腿骨の器官培養を行い、経時的発光観察下に温熱刺激を与えると、発光量が変化することが明らかになった。このことは、軟骨の体内時計が温熱刺激によって状態(時刻)を変化したことを意味する。 臨床分野においては、変形性関節症の疼痛を緩和させる治療法として温熱療法が広く用いられている。温熱刺激によって体内時計の状態を調節できることは、変形性関節症の軟骨変性を予防できる可能性がある知見であると考える。 その一方で、これまでのところ温熱刺激が軟骨の体内時計を変化させる機序や軟骨代謝に対する影響はいまだに明らかにはできていない。今後はシグナル伝達経路を調節する小分子化合物の投与を行うことで、その機序を明らかにする。さらに、われわれがすでに作成に成功している時計遺伝子の発光レポーターを安定発現した細胞株を用いることで、軟骨代謝に対する影響を検討していく予定である。
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