研究課題/領域番号 |
21K16669
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
申 育實 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 特任研究員 (70761352)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肉腫 / 胞巣型横紋筋肉腫 / PAX7-FOXO1 |
研究実績の概要 |
横紋筋肉腫は、未分化型間葉系細胞を発生母体として横紋筋への分化を示す細胞からなる軟部肉腫である。小児の肉腫の中では最も発生頻度が高いが本邦では年間 100例程度の発症数であり、希少がんである。低・中間リスク群においては手術、放射線療法、化学療法の集学的治療によって予後は改善されている一方、高リスク群に対する標準治療は確立されておらず、予後不良である。本研究ではPAX7-FOXO1 融 合 遺 伝 子 を 有 す る 胞 巣 型 横 紋 筋 肉 腫 (alveolar rhabdomyosarcoma, ARMS)を研究対象とする。ARMSは融合遺伝子のタイプから PAX3-FOXO1融合遺伝子あるいはPAX7-FOXO1融合遺伝子を有するものに分類される。PAX7- FOXO1融合遺伝子を有するARMSの細胞株はほとんど樹立報告がなく公的細胞バンクから入手できない。研究代表者は、腫瘍組織を用いて世界で3例目となるPAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSの患者由来細胞株(PDCs)、および世界初の患者由来ゼノグラフト(PDXs)とオルガノイド(PDOs)の樹立に成功した。そして抗がん剤をスクリーニングして抗腫瘍効果を示す抗がん剤を同定した。本研究では、これらPDCs、PDXs、PDOsを用いて、①PAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSの治療に有効な抗がん剤の同定、②PAX7-FOXO1 融合遺伝子の病態における役割の解明、③プロテオゲノミクスによる治療奏効性予測バイオマーカーの開発を行う。2021年度は①PAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSのPDOsに対する抗がん剤の感受性試験、②PAX7-FOXO1 融合遺伝子の病態における役割の解明の実験系の立ち上げ、③プロテオゲノミクスによる治療奏効性予測バイオマーカーの開発に資する質量分析データの取得を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PAX7-FOXO1 融合遺伝子の病態における役割については、PAX3-FOXO1融合遺伝子と比較すると報告が明らかに少ない。この原因として、PAX7-FOXO1 融合遺伝子については実験に使用可能なPDCsの少なさが挙げられる。実際に、PAX7-FOXO1 融合遺伝子の機能について調べた論文には発現プラスミドを人為的に組み込んだ細胞を用いたものもあり、PAX7- FOXO1融合遺伝子を有するARMSの研究の実施環境は良くない。そこで研究代表者は本研究に先立ちPAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSのPDCs、PDXsおよびPDOsを樹立した。本研究ではこれらを用いてPAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSの治療法の開発に資する知見を得るとともに、患者由来がんモデルはがんの治療法の開発に本当に有効なのか検討することを目的としている。 2021年度は、①PAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSのPDOsに対する抗がん剤の感受性試験、②PAX7-FOXO1 融合遺伝子の病態における役割の解明を目指した実験系の立ち上げ、③プロテオゲノミクスによって治療奏効性予測バイオマーカーの開発に資する質量分析データの取得を行った。①については、脱細胞化組織と共培養したPDOsについて抗がん剤への応答を調べPDCsと同様の実験系で薬剤感受性試験を実施可能であることを確認した。②については、PAX7-FOXO1融合遺伝子産物を免疫沈降するための条件検討を行い、ウエスタンブロッティングで検出可能な量のPAX7-FOXO1融合遺伝子産物を得ることに成功した。③については、研究代表者の所属する研究室で開発した、ゲノムと質量分析のデータを統合的に解析するプロテオゲノミクスのためのソフトウェア(OncoProGx、未発表)に資するための質量分析データを、ARMSのPDCsを用いて取得した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の結果をもとに下記のように研究を推進する。①PAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSのPDCsで抗腫瘍効果を認めた抗がん剤について、PDXsや、脱細胞化組織を用いて構築したPDOsを用いた薬剤スクリーニングを行い、抗腫瘍効果を検証する。②PAX7-FOXO1 融合遺伝子の病態における役割の解明について、PAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSのPDCsのmRNAの発現変動を網羅的に調べる。またPAX7-FOXO1融合遺伝子産物のタンパク質複合体の解析を、2021年度に見出した実験条件に則って免疫沈降および質量分析を用いて行う。PAX3- FOXO1融合遺伝子とPAX7-FOXO1融合遺伝子とでは、腫瘍に与える効果が違うことが臨床的な観察からわかっており、細胞株やオルガノイドを用いた実験で分子背景を解明する。③プロテオゲノミクスによる治療奏効性予測バイオマーカーの開発について、2021年度に取得した質量分析の結果と②で取得予定のmRNAの発現変動データを用いてプロテオゲノミクス解析で分子背景を網羅的に調べる。①で得られた薬剤感受性や応答性の結果および②で得られた分子背景も統合し、バイオマーカー候補を同定する。最終的にはARPS患者由来の腫瘍組織においてその発現を確認する。一連の研究を通してPAX7-FOXO1融合遺伝子を有するARMSの治療法の開発に資する知見を得るとともに、患者由来がんモデルを用いた多層的なアプローチの有用性を検証することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数処理の結果発生した金額である。 翌年度分と合算した際、同様に端数処理によって発生もしくは消失すると考えている。
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