間葉系幹細胞(MSC)を用いた関節軟骨の再生医療の実現には、移植に用いる自家MSCの特性の解析が重要である。これまでの先行研究では、患者膝滑膜より調製したMSCは、IL1b受容体(CD121a)陽性細胞分画は約5%程度と低いにもかかわらず、in vitroにおいてIL1bが強力な増殖因子として作用することを示した。更に、IL1bはMSCの多分化能に影響しないことを示した。これらの結果は、IL1bが関節腔内において炎症反応を惹起するカタボリックな側面に加えて、組織修復のプロセスを促進するアナボリックな側面も合わせて有する可能性を示すと考えている。 IL1bによるMSC増殖促進効果は血清の存在下でのみ観察されたことから、血清中に存在する他の増殖因子の作用を増強する働きがあると考えられた。細胞増殖に関連する細胞内Erk1/2のリン酸化を検証したところ、血清刺激によりErk1/2のリン酸化は早期(5~10分)に一過的に観察されるが、IL1bはその時間を倍以上(5~30分)に延長させることが明らかとなった。この現象はMSC特異的であり、他の細胞株(HEK293FT等)においては、刺激後早期の一過的なリン酸化のみ観察された。MSCにおいて観察される遅延型Erk1/2リン酸化の分子機序を明らかとする目的で、免疫染色によるIL1受容体(CD121a)の局在解析を行ったところ、MSCではCD121aは細胞膜ではなく主に細胞質に局在することが明らかとなった。さらに、このMSC特異的発現制御の分子機序として、MSC特異的スプライシングの可能性が示唆された。 以上の結果から、IL1bが血清中に存在する増殖因子の強力な補助因子として機能する機序として、細胞質におけるレセプターとリガンドの相互作用による新規の遅延型情報伝達様式の存在か示唆された。
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