本研究では、脊椎退行性変化と密接に関係する疼痛の制御を目指すにあたり、椎体終板の多孔化に着目し、その病態と分子標的薬による制御を目指してきた。まず、腰椎椎間板症(椎間板ヘルニア、椎間板性腰痛)患者の3DCT画像を用いて、椎体終板の骨性欠損(終板の多孔化)評価を輪状骨端と中央部に分けて解析した。結果として、骨性欠損は、下位腰椎で多く見られ、中でも後方区画に多く存在することが明らかとなった。そして椎間板変性度とも有意に相関することを示した。これらのことから、例えば椎間板ヘルニアにおいて、椎体終板の変化が、ヘルニア塊の突出の一因となっている可能性が示唆された。さらに椎体終板の変化は、脊椎退行性変化と一つとして考えられた。 次に終板の変化には、破骨細胞が重要な役割を果たしていると考え、以後の実験をすすめた。椎体終板における破骨細胞の働きを抑制することによって、脊椎退行性変化を抑制できるのではないかと考え、すでに椎間板の細胞外マトリックス代謝の不均衡を是正する薬剤として、我々が効果を示した選択的c-Fos/AP-1阻害薬の破骨細胞分化に対しする効果をin vitroで検証した。昨年度は、マウス由来マクロファージ様細胞株Raw 264.7細胞を単層培養し、破骨細胞へ分化誘導したものに選択的c-Fos/AP-1阻害薬を加えることで、破骨細胞分化が抑制されるかを検討したが、TRAP染色や遺伝子発現では、有意な変化が見られなかった。ただマウス骨髄由来幹細胞を破骨細胞へ分化誘導したものでは、選択的c-Fos/AP-1阻害薬を加えることでTRAP染色における破骨細胞への分化が抑制されることが明らかとなった。選択的c-Fos/AP-1阻害薬の椎間板変性抑制効果は、椎髄核、線維輪におけるマトリックス代謝の不均衡是正だけではなく、椎体終板の骨性欠損抑制効果も反映している可能性がある。
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