研究課題/領域番号 |
21K16684
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮村 聡 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (10897599)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小児肘関節障害 / CT / 骨内部性状 / 軟骨構造 / 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎 / 小児肘関節周囲骨折 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
我々は、CT骨モデルを用いた骨・関節三次元解析システムを独自に開発し、関節キネマティクス研究や臨床へ応用してきた。その過程において、骨内部性状や軟骨構造などの質的要素を骨形態・関節動態と関連付けて評価することに成功した。病変部の質的評価は、疾患及び病態に応じた詳細な解析を可能とし、病期進行予測や病態把握につながる。この手法のさらなる応用を目指し、臨床において現在も診断・治療上の課題が山積する小児肘関節障害をターゲットとして以下の研究を行った。 ①上腕骨小頭OCDを対象とした骨性構造評価 骨内部性状の解析により、関節周囲の軟骨下骨の三次元骨密度分布が明らかとなれば、病状進行の程度や疾患の病態把握等に有用な情報が得られる。野球肘として知られる上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)では、病変部の空間的広がりや不安定性を評価して病期・病態を正しく把握することが治療方針決定に際して重要である。本研究では、CTデータから三次元骨モデルを作成し、骨内部性状(病変部の空間的広がりや軟骨下骨の骨密度変化など)を評価することにより、治療に直結する病態把握や予後不良因子の解明を進める。 ②小児上腕骨外顆骨折を対象とした軟骨損傷評価 四肢関節疾患の画像診断において特に難渋するのが、軟骨の評価である。小児期の関節周囲の骨折では未骨化の軟骨成分にまで損傷が及んでいる場合があり、正確な診断に至らず不適切な治療が行われ、成長障害などの重度後遺症を残すことがある。本研究では、小児肘関節周囲骨折を対象に軟骨病変の描出方法を確立し、結果を術中所見と照合することにより、その診断精度を検証する。さらに、人工知能に繰り返し学習させることで、軟骨損傷部の画像識別能強化を図る。軟骨損傷の正確な把握は適切な治療選択を可能とし、成長障害などの重篤な後遺症の予防につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①上腕骨小頭OCDを対象とした骨性構造評価 これまでに蓄積されたCT DICOMデータから、密度情報を保持したまま三次元骨モデルを構築し、密度分布を表現することによりdensitometryを作成した。これにより病変部の詳細な解析が可能となり、病変部と健常肘との比較を行うことにより、病変部の評価方法を確立した。 ②小児上腕骨外顆骨折を対象とした軟骨損傷評価 本研究では、代表的小児肘外傷である上腕骨外側顆骨折のCTデータから、密度情報を含む三次元骨モデル及び軟骨部のdensitometryを作成し、局所濃度勾配変化を定量化することにより軟骨病変の可視化を目指している。さらに、関節鏡手術により得られた軟骨損傷部の関節鏡写真と解析結果を照合することにより、手法の精度検証を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
①上腕骨小頭OCDを対象とした骨性構造評価 各研究施設内の画像データベースを用い、OCD病変を手術群、保存治療成功群に分けて比較することにより、病期毎の特性評価や予後不良因子の同定を行う。また、本疾患は諸外国と比して本邦で有病率が高く、(高校野球での連投に代表される)過度な投げ込みによる力学負荷に加え、発症には遺伝的要因も関連していると考えられる。そこで、米国共同研究機関であるマサチューセッツ総合病院より提供された資料と本邦患者とを比較することにより、患者背景やスポーツ種目・人種間の差異など、遺伝学的・疫学的解析へと研究を発展させていく。 ②小児上腕骨外顆骨折を対象とした軟骨損傷評価 軟骨病変の描出方法を確立し、上腕骨骨端離開や肘関節脱臼など、軟骨損傷の評価が必須とされる他の小児肘外傷へ手法を適用させる。加えて、今後はこれらの結果を人工知能に学習させることで画像識別能向上を図る。過去のデータベース及び研究期間内の新規症例から、上腕骨外側顆骨折の解析を100例程度繰り返し、その他の小児肘外傷や正常肘関節と合わせて合計1000例程度の解析結果を蓄積する。人工知能の学習は、CT画像と描出結果を対データとして、Convolutional Neural Networkを用いて5万回の深層学習を行う。ネットワーク構造の見直し、学習データの正規化を繰り返すことにより、肘関節CT画像から軟骨損傷の有無を判定し、損傷部位を描出するモデルを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の計画で概ね研究は進行しているが、既存の物品で研究を遂行できたこと、コロナ禍の中、学会活動が制限されたことにより、予算内での研究費使用となった。余剰分は次年度以降に繰り越して使用する予定である。
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