研究課題
超高齢社会日本では、生体内にインプラントを留置する手術が増加し続けている。感染・ゆるみ等の合併症を回避し、長期間高機能を保つインプラントが求められる。インプラントが適切に機能を発揮するためには、物理的安定性だけでは不十分であり、生物学的因子が程よく調整される必要がある。申請者は、インプラント周囲に適切な炎症と線維化を誘導できれば、インプラントのさらなる長寿命化が可能であると考えている。異物周囲に存在することが分かっている異物巨細胞の起源および機能解析から、長寿命化のヒントを得たい。そこで本研究では、インプラント抜去手術時の臨床サンプルを活用し、ヒトとマウスにおける異物反応の相違を明らかにしようと考えた。具体的には、1細胞レベル解析技術を用いた遺伝子発現網羅的解析を行い、候補細胞とその分泌因子から長寿命化に必須な因子を探る。本年は、東大病院よりご提供頂いた1症例の臨床検体を用いて、1細胞解析を行った。炎症と線維化をバランス良く誘導する異物反応制御因子に迫る知見を得ることができた。今後症例を重ね、より最適な細胞・因子同定に進めていきたい。また得られた候補因子の再現及び機能解析に用いる動物異物モデルはすでに確立し、さらに洗練させることができた。本研究では、動物種間を超えて、異物反応および異物巨細胞の分化メカニズムおよび機能を明らかにしたいと考えている。本研究を加速することで、生物学的理解に立脚したインプラント開発が期待されている。
2: おおむね順調に進展している
臨床サンプルを用いた1細胞解析の1例目の解析を行うことができた。骨折後内固定を行ったが、不安定性が残り、抜去に至ったインプラント周囲に存在した不良線維組織を対象とした。同症例の骨髄細胞も併せて1細胞解析を行った。結果、骨髄とインプラント周囲では、異なる免疫細胞集団が存在し、液性分泌因子を放出することが明らかとなった。また偽関節部の骨髄中にも、骨形成を促進する特定の細胞集団が存在することが分かり、異物反応と同時に骨形成促進治療の鍵も得ることができた。東大病院における手術時破棄サンプルを用いた研究は、従来の手法では分からなかった生物学的知見が複数得られている。今後も解析を重ねるためには更なる研究資金の確保が必要な状況であり、本研究の進捗は概ね順調に進展しているとさせて頂いた。
2022年度は最終年度となる。これまでに得られた知見を盛り込んだ成果の国際学会発表及び論文公表を予定している。米国骨代謝学会、日本骨免疫学会、骨代謝学会、分子生物学会をはじめ、国内外の領域を超えた研究者とのディスカッションを重ね、本研究で開発する要素技術の精度を高めていく予定にしている。また現在新たな1細胞解析技術の開発を推進しており、こちらは先端ゲノム支援第2期の申請により、研究を加速したいと考えている。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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