研究課題
本研究の目的は、肉腫に対するTAMを標的とした免疫療法の有効性および安全性を検討し、新しい治療戦略としてのレジメンを創出することである。肉腫は従来の化学療法、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などに抵抗性の強い組織型が多く、新しい治療法の有効性が認められれば、学術的だけでなく社会的な意義も大きい。本年度は骨肉腫に対するTAM標的免疫療法の前臨床的有効性を証明した。使用した薬剤は、TAMの分化に重要なCSF-1/CSF-1R経路を遮断するPLX3397(CSF-1R阻害剤)である。マウス骨肉腫高転移性株であるLM8のcytokine arrayを行い、CSF-1の分泌を確認した。LM8培養上清およびCSF-1を用いてC3Hマウス骨髄細胞(bone marrow-derived macrophage; BMDM)から肉腫TAMモデルを作製した。LM8の培養上清はCSF-1と同様にBMDMにおけるpERKを誘導しM2方向へ分化させ、CD45+CD11b+CD206+細胞を分化させることを見出した。また、LM8培養上清はこれらの細胞の浸潤を促進させることを明らかにした。PLX3397によりBMDMのpERKは阻害されM1方向への分化が生じ、TAMの生存・遊走は双方とも阻害されることを確認した。LM8同所移植マウスモデルでは、PLX3397(10 mg/kg/w)の全身投与により、明らかな毒性なく、腫瘍増大および肺転移形成は有意に抑制された。以上の実験から、PLX3397が骨肉腫に対して抗腫瘍効果をもたらすことを証明し、この成果はMolecular Cancer Therapeuticsに受理され出版された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、肉腫各組織型TAMに対するPLX3397の有効性・安全性および肉腫微小環境に与える影響の検討を、以下の内容で計画していた。(1)肉腫細胞由来サイトカインの網羅的解析と分泌サイトカインを用いたin vitro TAMモデルの構築(令和3年度)(2)In vitroにおけるPLX3397の肉腫細胞株および肉腫由来TAMモデルに対する有効性の検討(令和3年度から4年度)(3)In vivoにおけるPLX3397の有効性・安全性の評価および肉腫微小環境への影響の検討(令和3年度から4年度)。今年度は、骨肉腫に対し、(1)から(3)の内容を証明し、米国科学雑誌に受理され出版されていることから、当初の計画以上に進展していると判断する。
肉腫の他の組織型に対するPLX3397単剤の非臨床的有効性および安全性を明らかにする。また、PLX3397と従来の化学療法との併用療法の有効性および安全性を明らかにする。さらに、これらの効果がなぜ得られたかを、腫瘍微小環境に着目してフローサイトメトリーや免疫組織化学染色により評価する。これらの知見をもとに、実用化に向けたレジメンの構築を行い、どのタイミングで併用するのが最も強力な有効性が得られうるかを明らかにしていく。
当初予定していた動物実験の一部を次年度に繰り越し、そこで大規模実験を行うこととしたため。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Molecular Cancer Therapeutics
巻: 20 ページ: 1388-1399
10.1158/1535-7163.MCT-20-0591
Cancers
巻: 3 ページ: -
10.3390/cancers13051086