研究課題/領域番号 |
21K16745
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
楠本 浩貴 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (10580681)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 乳酸 / がん微小環境 / ヒストン修飾 / B細胞 / IL-10 |
研究実績の概要 |
がんはワールブルグ効果により解糖系を亢進し、過剰な乳酸を産生・放出する。そのため乳酸はがんに特有な高乳酸環境を形成している。今回、我々は乳酸が免疫細胞、特にB細胞のヒストンH3のアセチル化を誘導することを明らかにした。 ヌクレオソームの形成に関わるヒストンは、様々な翻訳後修飾によりクロマチン構造を変化させ、エピジェネティックな遺伝子発現の制御に関与する。特にヒストンH3の27番目のリシンのアセチル化(AcH3K27)は「active enhancer」の指標として知られる。我々は、高乳酸環境が脾細胞のヒストンH3のアセチル化へ与える影響をウエスタンブロット法およびフローサイトメトリー(FACS)により検討した。その結果、B220陽性B細胞特異的にAcH3K27の飛躍的な増加が認められた。脾細胞および脾臓から単離したB細胞を用いて、乳酸及びCD40刺激に伴う遺伝子発現をRNAseqにより検討した。乳酸は単独でサイトカインを含む様々な遺伝子発現を誘導し、CD40刺激はその遺伝子発現パターンを変化させることが分かった。サイトカインの中でも特に抑制性サイトカインであるIL-10遺伝子の発現誘導が著しく、この結果はRT-qPCRでも同様であった。最後に、腎癌細胞株RENCAや膀胱癌細胞株MBT2をマウス背部皮下に移植し、腫瘍内乳酸濃度及びAcH3K27を検討したところ、腫瘍内乳酸濃度は脾臓より高く、腫瘍浸潤Bリンパ球のAcH3K27も正常脾臓B細胞より有意に高かった。 以上の結果から、腫瘍内の高乳酸環境は、B細胞のAcH3K27を亢進させ、遺伝子制御を行うことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
i)ヒトRCC検体の乳酸濃度と多様な遺伝子発現との相関性 ヒト腎癌検体を使用し、メタボローム、リピドミクス解析により、再発、非再発症例における腎癌腫瘍内代謝系の変化の検討を行った。また、腫瘍内遺伝子発現の変化の検討を目的に、現時点で40例のヒト腎癌検体からのRNA回収が終了している。
ii)乳酸が免疫細胞へ与える影響のin vitro解析 マウス脾細胞における、乳酸刺激によるヒストン修飾やサイトカイン産生の変化について、ウエスタンブロット法、FACS。RT-qPCR、RNAseqでの検討が終了している。
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今後の研究の推進方策 |
i)ヒトRCC検体の乳酸濃度と多様な遺伝子発現との相関性 ヒト腎癌検体からのRNA回収を継続し、計100例程度での解析を予定している。対象検体数を増やし、再発、非再発症例における代謝系の変化に加えて、腫瘍内における遺伝子発現の変化と、再発予測因子の同定を目指す。
ii)乳酸が免疫細胞へ与える影響のin vitro解析 乳酸によるB細胞からのIL-10産生亢進が確認されたが、IL-10は制御性B細胞が分泌するサイトカインであることから、今後は高乳酸環境と制御性B細胞の誘導との関連性を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の試薬購入に使用を予定しています。
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