研究実績の概要 |
本研究では、前立腺癌の去勢抵抗性増殖の一因であるFAK-YAPシグナル活性化を来すGPCR探索と、そのシグナル遮断による新規治療の探索を目的とした。 申請者グループの先行研究で、Gq型のG蛋白共役型受容体(GPCR)の活性化により、FAK-YAPシグナルの活性化が起こることを見出している。本研究では、前立腺癌臨床検体で発現亢進しているCHRM1とCHRM3に着目し、さらにこれら受容体を制御しうる機構について解明した。 去勢感受性前立腺癌細胞株をアンドロゲン除去環境下(去勢環境下)におき、CHRM1とCHRM3の発現を確かめると、これら受容体の発現は亢進した。さらに、このメカニズムを見出すため、この去勢環境下においた去勢感受性前立腺癌細胞株からRNAを抽出し、網羅的RNA発現解析を行った。さらに、RNA配列からCHRM1, CHRM3を制御しうるマイクロRNAを抽出すると、miR-15b-5p, miR-18a-5p, miR-424-5pが候補として挙げられた。miR-15b-5pは去勢抵抗性前立腺癌臨床検体で、ホルモン感受性前立腺癌検体より発現が低下しており、さらに癌細胞を去勢環境下で培養すると発現が低下することを確認した。miR-15b-5pを核酸導入すると、CHRM3のmRNA発現は低下し、さらに下流のYAPの活性化が低下することが分かった。また、CHRM3のリガンドであるカルバコールを用いてこのシグナルを刺激するとYAPが活性化するが、この活性化は、miR-15b-5pの拡散導入により抑えられることがわかった。 これら結果より、CHRM3の活性化によりFAK-YAPが活性化すること、さらにCHRM3の発現亢進の一因として去勢によりmiR-15b-5pの発現低下が起こることが分かった。本研究成果は前立腺癌の去勢抵抗性増殖の機序の解明の一助となりうると考えられる。
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