研究課題
正常妊娠初期(n=4)、正常妊娠後期(n=3)、妊娠高血圧腎症(PE)(n=3)の子宮内膜リンパ球、正常妊娠後期(n=1)の末梢血リンパ球からCD4陽性細胞をセルソーターで分離し、BD Rhapsody single cell analysis systemを用いて単一細胞mRNA+T細胞受容体(TCR)を施行した。発現変動のある遺伝子をもとに、クラスタリング解析を施行したところ、12種類のconventional CD4陽性細胞(Tconv)分画(ナイーブ、メモリー、活性化、PD-1+抑制型)と、FoxP3+制御性T細胞(Treg)の計13の分画から成るヘテロな集団であることが判明した。PD-1陽性抑制型、活性化型、Treg分画では細胞のクローン化率が高く抗原特異的クローンを含む群であることが分かった。CD4+Tconvはメモリー型・活性化型・PD-1+抑制型クラスター間にクローン重複があり、局所での抗原刺激を受け分化していることが示唆された。一方、Treg分画で増加しているクローンは他の分画とほぼ重複せず、Tconvとは異なる抗原を認識しており、誘導経路も異なると考えられた。興味深いことに、PEでは、Treg分画のクローナリティが高い細胞にRORC、IL18といったproinflammatoryな形質の獲得を示唆するmRNAの発現が増加しているものが存在した。また、PEのTreg分画でSTAT1の発現が亢進していた。T細胞でのSTAT1のoverexpressionは自己免疫疾患発症のリスク,病態関連分子であることが報告されている。STAT1-JAK経路の阻害は免疫学的治療のターゲットとなりうる。PEにおいてもTregにおけるSTAT-1強発現が病態関連分子である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Ⅰ. 正常妊娠とPE症例で、抗原特異的Tregの機能分子発現を比較検討し、免疫学的治療の標的となる病態関連分子を明らかにする。(2021-2022年度)PEでは抗原特異的Tregがproinflammatoryな形質に傾斜していることを示唆する所見が得られた。また、自己免疫疾患における病態関連分子としての既報があるSTAT1の発現亢進が、PEのTreg分画でも認められた。以上よりⅠの目標は達成された。Ⅱ. 妊娠子宮で機能する抗原特異的Tregの誘導過程を明らかにする。(2021-2022年度)TregとCD4+Tconvは認識する抗原と誘導経路が異なる可能性が示唆された。マウスでは、Tregは所属リンパ節で抗原提示されexpansionしたものが子宮へ誘導されていると報告されており、ヒトでも同様の誘導経路である可能性が示唆された。一方、子宮局所でTconvがPD-1+subsetへ分化している可能性が示唆され、母子境界領域で免疫寛容の誘導メカニズムの一つかもしれない。以上が判明したことによりⅡの目標も概ね達成されたと考えられる。
PEでのTreg分画における病態関連分子の同定と、TregとCD4+Tconvの誘導経路の違いを明らかにすることができたため、論文作成・投稿を行う。
論文作成時の英文校正を2022年度に行う予定であったが、データ解析に時間を要したため2023年度に行うこととした。したがって次年度使用額が生じた、2023年度に、英文校正と論文投稿を行うため、その費用として使用する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件)
J Reprod Immunol.
巻: 155 ページ: 103766
10.1016/j.jri.2022.103766. Epub 2022 Nov 24.
J Reprod Immunol
巻: 155 ページ: 103792
10.1016/j.jri.2022.103792. Epub 2022 Dec 29.