本研究では、卵巣癌をモデルとし、腫瘍細胞の上皮間葉転換が腫瘍微小環境における免疫細胞の代謝にどのような影響を及ぼすか検索することを目的とした。前年にマウス皮下腫瘍モデルおよびマウス卵巣腫瘍モデルを比較し、正確に状態を把握できる皮下腫瘍マウスモデルを使用することとした。 免疫細胞として、Snail発現低下腫瘍とコントロールで有意な差を示した骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の顆粒球系であるPMN-MDSCに着目した。 MDSCの代謝物の計測を行おうと試みたが、網羅的な質量分析は技術的に困難であり、まずどの代謝系に着目すべきか探索するため、に、代謝物を変化させる代謝系酵素の遺伝子発現レベルに変化がないかどうかを調べることとした。 セルソーターを用いてマウス皮下腫瘍からPMN-MDSCの抽出を行い、RNA-seqで遺伝子発現量の変化について検索した。RNA-seqからは期待していた代謝系の遺伝子の発現に差異を認めず、IL-10などの炎症性の免疫に関与する遺伝子のみ発現に差異を認めた。その中で最も采を認めたプロスタグランジン受容体の一つであるEP1に着目した。EP2およびEP4は免疫抑制細胞の一つである制御性T細胞の表面に発現する受容体であり、EP2/EP4阻害剤がプロスタグランジンによる制御性T細胞の腫瘍局所への誘導や活性化を阻害することで抗腫瘍効果を呈していることなどが報告されている。その反面EP1はまったく報告されておらず、PMN-MDSC特有の受容体の可能性に関して探索している。
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