研究課題
まず子宮体癌細胞株のHEC-1A(ER陰性)とIshikawa(ER陽性)を用い、作成したCDDPおよびPTX耐性細胞株(以下、抵抗性株)でERRαの発現が増加していることをreal time PCRで確認した。また抵抗性株では薬剤抵抗性に関与するATP-binding cassette(ABC)トランスポーターの一つであるABCB1を制御するmiR-9の発現が低下していた。非抵抗性株ではERRα強発現によりmiR-9は低下し、ABCB1のmRNAは増加していた。一方、抵抗性株ではERRαのノックダウンによりmiR-9は増強し、ERRαのinverse agonistであるXCT790によっても同様の結果であった。miR-9とABCB1の発現は逆相関し、ERRαの下流にmiR-9が存在することが示唆された。またXCT790によって抵抗性株の薬剤感受性が改善したことからERRαがmiR-9、ABCB1を介して薬剤抵抗性に関わることが示唆された。一方でABCトランスポーターであるABCC1やABCG2に関しては抵抗性株で発現が増強する傾向にあったが、ERRα強発現による影響は限定的であり、ABCB1とは異なる制御経路が存在が考慮される。再発中・高リスク子宮体癌症例の臨床検体を用いてERRαと薬剤感受性およびERαとERRαを評価した結果、type1子宮体癌症例(類内膜癌 G1/2)よりもtype2子宮体癌症例(type1以外)ではERRα発現が高い傾向を認めた。解析途中であるが、type1に比してtype2では予後不良であったが、ERRαのH-scoreが150以下の症例に限るとその差は縮小した。また組織型に関わらずERαのH-scoreが低い症例ほどERRαによる予後への影響が大きい傾向が見られ、ERαとERRαのcrosstalkが実臨床においても影響している可能性がある。
3: やや遅れている
本年度になり、COVID感染症による社会生活への制限が緩和されたことで研究は概ね順調に実施できていると考えられる。しかし、初年度に生じた遅延を克服するには至らず、全体的には未だ遅れを生じていると評価せざるを得ない。来年度中に実施予定項目を完遂できるように鋭意努力する。
抵抗性株は抵抗性を獲得した薬剤以外の機序を持つ他の薬剤に対しても一定の抵抗性を示す傾向にある。これまでABCトランスポーター毎に抵抗性を示す薬剤候補が同定・検証されてきたが、候補薬以外でも抵抗性を獲得するためERRαなどの多因子による影響が考慮される。そのため実臨床で用いられる複数の薬剤に対し、各抵抗性株がどのような効果を示すかを検証することで、抵抗性獲得後の治療選択への糸口を見出す。また抵抗性株とXCT790を用いin vivoで各種殺細胞薬と抗腫瘍抑制への影響について検証する。これまでの結果から、ERα発現が低いほどERRαによる予後への影響が大きいことが示唆されるため、抵抗性株はERα陰性子宮体癌細胞株による評価をまずは予定する。臨床検体ではアロマターゼ抗体による組織染色は終了したため、H-scoreの評価および局所エストロゲン産生に影響すると考えられる臨床情報(コレステロール値、BMIなど)との相関を評価していく。この過程でERRα、ERαのcrosstalkのみならず、エストロゲン依存性疾患である子宮体癌の局所エストロゲン産生との関連を明らかにすることが可能となり、バイオマーカーとして個別化治療へつながることが期待できる。
初年度からの研究遅延により、必要となる物品の使用時期がずれこんだため来年度に抗体や試薬、マウスなどを購入予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 5件)
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