研究課題/領域番号 |
21K16785
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田村 亮 新潟大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (70650620)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍内不均一性 / APOBEC / XCL1 / 免疫チェックポイント阻害薬 |
研究実績の概要 |
本研究は先行研究の追加として、検体数の追加による分子生物学的特徴の検証およびXCL1の発現差による違いの検証、臨床検体を用いた実験リソースの作成と XCL1-XCR1経路の機能解析および抗PD1/PD-L1抗体の効果の検証、腫瘍XCL1発現と抗PD-1/PD-L1抗体の奏効割合との関連性の評価を行うことを目的としている。これまでに、2症例の網羅的解析の追加と実験リソースの作成を行なっている。昨年度は自施設での新規症例を認めず、症例の追加や実験リソースの追加については進んでいない。今回、関連研究として卵巣成熟奇形腫から発生した悪性腫瘍2症例に対して、腫瘍内の複数の部位から検体採取を行い、網羅的解析を行った結果について、データ解析、考察を加え、論文作成をしたためその内容を報告する。 本疾患の肉眼的・組織学的所見は多様性に富むことが知られているが、同一腫瘍内の不均一性については明らかになっていない。今回対象とした2症例は、1症例は角化型扁平上皮癌と非角化型扁平上皮癌が混在している症例、もう1症例は非角化型扁平上皮癌と脱分化癌が混在している症例であった。これらの2症例の複数箇所から網羅的ゲノム解析を行うことで、1) 本疾患が混在する組織所見毎に大きく異なる遺伝子異常を有する腫瘍であること 2) 組織所見にかかわらず強いAPOBECシグネチャーの関与が考えられること3) 腫瘍内の非癌部への遺伝子異常の広がりは検体間で大きく異なることを明らかにした。本疾患の強い腫瘍内不均一性は、治療抵抗性に影響している可能性があり、組織所見が異なる複数部位での評価が重要であることが示唆される。また、APOBECシグネチャーは腫瘍免疫や免疫チェックポイント阻害薬の効果との関連が報告されており、卵巣成熟奇形腫から発生した卵巣がんで組織型を超えて、免疫チェックポイント阻害薬が有効な可能性が示唆される。今回の結果はCancer Science誌に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
希少疾患を対象にしており、昨年同様に検体収集に難渋している。また、実験リソースについても、実験に使用できる段階まで進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、検体の収集や新規症例に対して網羅的解析や実験リソースの作成を試みる。ただし、希少疾患であることや実験リソース作成についてはこれまでに2症例に対して行いうまくいっていないことから、順調に進まない可能性を考慮する必要がある。検体収集に関してはより多くの共同施設との研究を計画し進めている。また、実験リソース作成がうまくいかないことを考慮し、他のアプローチによる本疾患におけるXCL1の意義の解明と治療戦略の構築を同時に進める。本疾患の腫瘍不均一性をさらに明らかにするべく、本疾患8検体に対しsingle cell RNAシーケンスを行い現在データを解析中である。また、良性の卵巣奇形腫からの悪性転化の機序解明を明らかにするべく、検体収集を進めている。それらの検体に対しても、網羅的解析を行う予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
検体収集や実験リソースの作成が順調に進まず、網羅的解析の費用などを次年度に繰り越している。
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