子宮頸部胃型粘液性癌(GAS)は発症にヒトパピローマウイルス(HPV)感染が関与しない稀な特殊型の子宮頸がんであるが、HPVワクチンが普及した後には子宮頸がんの代表的な組織型となる可能性がある。GASの約半数は良性の胃型病変である分葉状頸管腺過形成(LEGH)を伴い、前駆病変の可能性が指摘されているが、遺伝学的には証明されていない。そこで我々は、LEGHを伴うGAS症例のLEGH部分およびGAS部分の全エクソーム解析を行い、同一症例内で体細胞変異を比較した。LEGHで認められた病的変異はGNAS変異のみであり、同変異はGASでも共有されていた。このため、本例においては、LEGHはGASの前駆病変であり、LEGHからGASの発症にGNAS変異が重要な役割を示したと考えられた。GASは抗がん剤や放射線療法が効きにくく、予後不良で悪性度の高い癌であるが、細胞株などの実験モデルがなく、研究が進んでいない。そこで、我々は細胞実験モデルとして、GASの患者由来オルガノイド(PDO)を樹立した。PDOとGAS組織の次世代シーケンス(NGS)解析により、複数の標的候補因子に注目し、解析中である。またPDOを免疫不全マウス皮下に移植し、オルガノイド由来異種移植腫瘍(ODX)の形成も確認した。さらに、我々は、Hippo-YAP/TAZシグナル伝達経路に注目しており、これまでの検討ではHPV関連の通常型内頸部腺癌ではYAP優位に核内に移行していたが、GASではTAZ優位に核内に移行していることが明らかになった。そこで、YAP/TAZ阻害薬をGASのPDO培地に加えたところ、PDOの増殖が抑制された。今後、さらにin vivo実験としてGASのODXでのYAP/TAZ阻害薬の効果を検討する予定である。
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