本研究では埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科と共同研究を行い、倫理基準を満たした正常卵巣組織および卵巣がんの臨床検体を用いたRNAシーケンシンスのデータから、卵巣がん特異的に発現する長鎖非コードRNAを探索した。特に蛋白質をコードする遺伝子と重ならないゲノム領域から転写されるlong intergenic noncoding RNA (lincRNA)と呼ばれる種類の長鎖非コードRNAに注目し、卵巣がん検体で最も発現量の高いlincRNAとしてNONHSAT013448を同定した。本lincRNAは非コードRNAのデータベースであるNONCODEに配列情報が登録されているものの、機能に関する報告がなく、卵巣がんにおける役割も不明であった。そこで我々は本lincRNAをovarian cancer long intergenic noncoding RNA 1 (OIN1)と命名し、卵巣がんにおけるOIN1の機能を解析した。卵巣がん細胞株であるA2780及びSKOV3を使用した生化学・分子生物学的解析により、OIN1が細胞増殖を促進する一方、siRNAによるOIN1の発現抑制はアポトーシスを亢進し、A2780細胞を免疫不全マウスに移植し作製した卵巣がん異種移植マウスモデルでの腫瘍増殖を抑制することを明らかにした。また、OIN1の下流遺伝子としてアポトーシス関連遺伝子であるras association domain family member 5 (RASSF5)およびadenosine A1 receptor (ADORA1)を同定した。さらに、RNAシーケンス解析を進展させることにより、卵巣がん特異的に発現し細胞増殖に関わるRNA結合蛋白質を探索しており、現在候補蛋白質の解析を進めている。
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