卵巣明細胞癌は白金製剤を主体とする化学療法に対して抵抗性を示し、予後不良な疾患である。上皮性卵巣癌に占める明細胞癌の割合は欧米では6-8%と低いものの、本邦では25%以上と高い割合を占めており、とりわけ本邦においては、卵巣明細胞癌を標的とした新たな治療戦略の構築が求められる。近年開発された、分子標的薬にPARP阻害薬(オラパリブやニラパリブ)があり、卵巣漿液性癌に対する有効性は高いものの、卵巣明細胞癌では効果が限定的であるのが現状である。我々は卵巣明細胞癌の約半数が変異していると報告されているARID1A遺伝子変異に着目し、これに対して合成致死効果のある遺伝子の対象を細胞周期、脱ユビキチン化、およびDNA損傷応答に関わる遺伝子約500種類についてスクリーニングを行い、7種類の候補遺伝子を同定した。上記の遺伝子群の中でその作用が判明しているものでシグナリングの最も末端で作用していると考えられたCyclin-E1(以下CCNE1)について研究を進めた。これらが、卵巣明細胞癌株の中でARID1A遺伝子変異株であるTOV-21GとKOC7c、ARID1A遺伝子野生株であるES2とRMG-Iについてそれぞれ干渉を行うと、変異株特異的に細胞増殖抑制効果を持つことを確認した。またTOV-21G(ARID1A遺伝子変異型)において、早期および後期のアポトーシスの誘導を確認した。裏試験としてES2とRMG-I(ARID1A遺伝子野生型)を用いてARID1A一過性干渉細胞株を作成し、更にCCNE1の干渉をすることで細胞増殖がARID1A遺伝子の干渉の強さに関わらず抑制されることを確認した。最後にヌードマウスを用いた腫瘍増大抑制効果を確認した。CCNE1特異的な阻害薬は現存しないために、生体内での分解を阻止するためにin vivo si-RNAを、徐放性を確保するためにアテロコラーゲンを用いた。
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