研究課題
Napsin Aは末梢型肺腺癌のマーカーとして知られているが、女性生殖器より発生する明細胞癌においても高発現している。しかし明細胞癌におけるNapsin Aの発現機序は不明であり、本課題ではその発現メカニズムを明らかにすることを研究目的としている。初年度は、卵巣明細胞癌においてNapsin Aの発現に関与する転写因子を解析するため、NAPSA遺伝子活性化に関与しうる転写因子の遺伝子導入が、形質変化に及ぼす影響について解析を行った。具体的には、NAPSA遺伝子を活性化させる可能性のある転写因子3種類について、それらをコードする発現ベクターを作製し、これをNAPSA発現の見られなかった卵巣癌細胞株5種(明細胞癌株と類内膜癌株)に遺伝子導入することで候補転写因子を強制発現させ、NAPSAの発現に変化が見られるかについてReal-time PCR法を用いて解析した。遺伝子導入細胞株において、タンパク質レベルでの転写因子発現を確認できない細胞株も存在したため、それらについてはシングルセル分注装置を用いて、当該転写因子を発現するモノクローナルな細胞株を作成し、NAPSA発現の変化を解析した。その結果、転写因子A導入株では軽度の発現抑制傾向が、転写因子Cでは軽度の発現亢進傾向が見られた。転写因子Bでは一定の傾向は掴めなかった。
2: おおむね順調に進展している
候補転写因子3種類について、発現ベクターを作製し、遺伝子導入によるNAPSA発現の変化について解析・検討できた点から、おおむね順調に進展している。
初年度に検討した候補転写因子は、軽度のNPASA発現亢進が見られたものはあったものの、劇的な変化を示す候補転写因子は見つかっておらず、Napsin A発現に強く関与し得る転写因子の同定には至っていない。今後は、卵巣明細胞癌株で高い発現を示し、卵巣類内膜癌株で発現のほとんど見られなかった他の候補転写因子に注目して検討を進めていく。また、新たな候補転写因子と、これまで検討してきた転写因子を共発現させることで、Napsin Aの発現にどのような変化が生じるかも解析したい。さらには、当該転写因子の遺伝子をノックアウトすることにより惹起される遺伝子発現変化についても検討していきたい。
学会参加旅費が、当初予定していたよりも低く抑えられたことから、繰り越しが生じた。残額は次年度、遺伝子導入や遺伝子ノックアウトによる解析を進めていく上で必要な消耗品に使用する予定である。
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Journal of Molecular Histology
巻: - ページ: -
10.1007/s10735-021-10055-5
The American Journal of Pathology
10.1016/j.ajpath.2022.03.007