研究課題/領域番号 |
21K16823
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
柏木 寛史 東海大学, 医学部, 助教 (10710460)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Pregnancy zone protein / プロゲステロン / グルココルチコイド |
研究実績の概要 |
本研究は、当初の予定では、実験1:PZPの血漿動態解析、実験2:構造変化後のPZPに対応するモノクローナル抗体の作製 実験3:PZPのプロテアーゼ阻害機能解析 実験4:PZP遺伝子改変マウスの解析の4項目からなっていた。今年度は、まず臨床検体の採取、解析と、モノクローナル抗体作製遂行に必要な抗原準備のための系の開発をおこなった。その過程で、妊娠時の炎症抑制には、ステロイドホルモンであるグルココルチコイド(GC)とプロゲステロン(P4)の影響が大きいため、その影響を考慮する必要性を見出した。そのため、新たな実験項目として、妊娠中の両ステロイドホルモンの血漿動態と機能について、PZPの動態とどの様な関連性があるかを比較解析した。 当初の予定である臨床検体採取と解析に関しては、同意を得られた妊婦から予定通り検体採取を行った。自己抗体・抗胎児抗体陽性の妊婦血漿と正常妊婦の血漿のPZPの血中濃度と、炎症制御に関連性がある妊娠ステロイドホルモンであるGCあるいはP4の関連性を解析した。その結果、両者は共に出産翌日には低下したが、特にP4の低下率は102近くなり、劇的な低下が観察された。これに対し、GCやPZPの低下は緩徐であった。また、出産時に生理的に炎症がおきた環境(経腟分娩)由来胎盤を分娩・炎症発生前の環境(帝王切開)由来胎盤と比較し、炎症環境の胎盤で好中球浸潤の亢進を認めた。これに対し、絨毛間腔血中のPZP濃度は血漿中と比較して低レベルであり、10倍程度に亢進するP4の方がより胎盤局所の抗炎症作用に有効である可能性が示された。一方、胎盤成分の血液中への流出も、全身性の炎症に寄与することが示唆される。例えば分娩後の肺塞栓症などは、自己抗原による急性の免疫応答を含むことが示唆される。これらに対し、PZPが発症抑制を誘導するかを今後確認していくことが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、臨床検体の採取、解析と、モノクローナル抗体作製遂行に必要な抗原準備のための系の開発を行った。その過程で、妊娠時の炎症抑制には、ステロイドホルモンであるグルココルチコイド(GC)とプロゲステロン(P4)の影響が大きいため、その影響を考慮する必要性を見出した。そのため、妊娠中の両者の血漿動態解析と機能解析を行い、PZPの炎症抑制機構は、これらのホルモンと関連するかを評価した。 自己抗体・抗胎児抗体陽性の妊婦血漿と正常妊婦の血漿をそれぞれ10症例ずつ採取することを目標とし、必要な検体数を達成した。また、胎盤組織の採取に関しても同様に行なった。 PZPの血漿動態解析に関しては、妊娠中のPZPをELISAを用いて解析した。PZPは妊娠中に非妊時の100倍以上に増加し、、分娩後は速やかに低下するという妊娠動態を示した。また胎盤絨毛間腔血PZP濃度は妊婦血漿の10分の1程度まで減少した。PZPは母体肝臓で大部分が産生され胎盤へ流入されていて、胎盤での産生は少量であることが示唆された。さらに出産時に生理的に炎症がおきた環境(経腟分娩)由来胎盤を分娩・炎症発生前の環境(帝王切開)由来胎盤と比較すると、前者に好中球がより多く浸潤し、PZP、Proline-Emdopeptidaseがより多く発現した。 一方ステロイドホルモンの動態としては、プロゲステロンは絨毛間腔血濃度が生理的妊娠血漿濃度の10倍程度高値であった。プロゲステロンは免疫寛容に寄与することが報告されているが、胎盤でのトロフォブラストに対する免疫寛容にプロゲステロンがグルココルチコイドより優位に寄与している可能性が示唆された(論文準備中)。出産前後の妊婦末梢血のリンパ球分画を比較すると、出産直後にナイーブT細胞が増加した。血漿プロゲステロンは末梢血T細胞のCD62Lの発現を維持し、血中循環を抑制している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
PZPに関して、今後はまずステロイドホルモン非依存下での機能解析を行う。まずは遺伝子コンストラクトを作製し、それをトランスフェクトしたHEK293あるいはHela細胞を培養してタンパク質を分泌させ、各種プロテアーゼ(セリンプロテアーゼ等)と反応させる。また、これらの培養上清と各種腫瘍細胞株を用いたtranswell migration assayを行う。プロテアーゼをゼラチナーゼB含有ゲル上で電気泳動し、タンパク質分解活性を測定する。これにより活性阻害を定量する。次に、プロテアーゼ結合部位を変異させたcDNAを遺伝子導入した細胞について同様の解析を行う。遺伝子コンストラクトの作成、ザイモグラフィー、transwell migration assay等の準備は整っており、2022年度に行う計画である。血中リンパ球分画のプロファイルについて、ステロイド存在下及び非存在下でさらなる分画の解析を行う。リンパ節局在因子であるCD62LやナイーブマーカーであるCD45RA、CCR7等を組み合わせ、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞等の分画を解析する。 また、抗PZPモノクローナル抗体はすでに市販されているが、プロテアーゼ結合後に構造変化したPZPに特異的に反応するモノクローナル抗体は存在しない。そこで、プロテアーゼ反応後のPZPの立体構造特異的なモノクローナル抗体を作製する。その抗体を用いてProline-Emdopeptidase 等のプロテアーゼに対する反応前後の局在や量を測定する。 さらに、プロゲステロンやコルチゾル等とPZPのクロストークによる炎症抑制の可能性を明らかにするため、両者の炎症下でのクロストークに関しても2022年度に解析を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、PZP遺伝子コンストラクトの作成と培養系細胞への遺伝子導入実験と、transwell migration assayを予定していたが、Covid-19感染拡大に起因する国際配送の遅れにより、実験に必要な試薬と実験環境を得ることができなかった。そのため、当初予定した予算の次年度への繰り越しが生じた。遺伝子コンストラクトの作成、ザイモグラフィー等の準備は整っており、試薬の到着を待ち2022年度に行う計画を立てている。
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