本研究は、当初の予定では、実験1:PZPの血漿動態解析、実験2:構造変化後のPZPに対応するモノクローナル抗体の作製 実験3:PZPのプロテアーゼ阻害機能解析 実験4:PZP遺伝子改変マウスの解析の4項目からなっていた。2021年度は、まず臨床検体の採取、解析と、モノクローナル抗体作製遂行に必要な抗原準備のための系の開発をおこなった。その過程で、妊娠時の炎症抑制には、ステロイドホルモンであるグルココルチコイド(GC)とプロゲステロン(P4)の影響が大きいため、その影響を考慮する必要性を見出し、新たな実験項目として、妊娠中の両ステロイドホルモンの血漿動態と機能について、PZPの動態とどの様な関連性があるかを比較解析した。 2022年度はP4およびGCの炎症制御機能を解析し、Frontiers in Immunology誌に論文報告した。臨床検体を用いて妊婦の血中動態を観察したところ、両ホルモンは分娩後に低下するが、特にP4の劇的な低下を認め、GCやPZPの低下は緩徐であった。細胞生物学的実験において、リンパ球に与えるP4およびGCの影響を検討したところ、P4はT細胞の可逆的な活性化抑制とリンパ節へのナイーブT細胞の誘導を、GCは炎症性サイトカインの分泌抑制に機能することを明らかにした。これらの絨毛間腔血中のステロイドホルモンに対し、PZP濃度は血漿中と比較して低レベルであるため、10倍程度に亢進するP4の方がより胎盤局所の抗炎症作用に有効である可能性が示された。一方、胎盤成分の血液中への流出も、全身性の炎症に寄与することが示唆される。例えば分娩後の肺塞栓症などは、自己抗原による急性の免疫応答を含むことが示唆される。これらに対し、PZPが発症抑制を誘導するかを今後確認していくことが必要である。
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