研究課題
内耳蝸牛における酸化ストレス障害部位を、NRF2の活性化を介して検出することを目的に、Cre/loxPシステムを用いた遺伝子改変マウスであるNeh2-Cre:tdTomatoマウスを構築し解析を行った。同マウスは、酸化ストレスが発生した細胞においてtdTomatoの発現が誘導されるため、細胞レベルで酸化ストレス障害部位を同定することが可能なマウスである。このマウスに対して音響曝露、シスプラチン投与等の酸化ストレス負荷を与えた所、特にシスプラチン投与により、蝸牛におけるtdTomato発現細胞、すなわち、酸化ストレス障害を受けたと考えられる細胞を多く認めた。更に、蝸牛内のtdTomato発現細胞の分布を観察すると、血管条やラセン靱帯といった蝸牛側壁やラセン板縁に多く発現しており、酸化ストレス障害が生じやすい領域である可能性が示唆された。一方、脂肪酸結合蛋白質の一つであるFABP7をCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトした、Fabp7ノックアウト(KO)マウスを用いた研究も行った。FABP7は多価不飽和脂肪酸の細胞内キャリアで、脂肪酸の代謝調節や転写調節、シグナル伝達等に関与することが知られている。今回、野生型マウスと比較し、Fabp7KOマウスに対する音響曝露による難聴発症が抑制されることが示され、免疫染色で酸化ストレスマーカーの4-HHEの減少が認められた。この結果から、FABP7の欠損による音響曝露後の過剰なシグナル伝達の抑制や、酸化ストレスの減少が細胞保護的に働いた可能性が示唆された。また、FABP7の蝸牛での発現部位を検討すると、有毛細胞には発現しておらず、ラセン靭帯やラセン板縁、コルチ器支持細胞等に発現していた。この結果も、ラセン靭帯やラセン板縁といった部位が酸化ストレス障害において重要な領域である可能性を示唆していると考えられた。
すべて 2023
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Scientific Reports
巻: 13 ページ: 21494
10.1038/s41598-023-48702-4.