研究実績の概要 |
鼻腔粘膜細胞シートは接着後に線毛細胞や杯細胞などへ分化してクリアランス機能が備わるかどうか、再び創傷が起こった際に治癒の挙動を示すかどうかなど、 本来の呼吸器系上皮組織に備わっている機能のは明らかになっていない。 本研究では、鼻腔粘膜細胞シートを再培養して分化能を評価した。 作製した鼻腔粘膜細胞シートには、線毛細胞マーカーのFOXJ1とアセチル-α-チューブリンや、杯細胞のマーカーのMUC5ACが存在しないことを確認した。この細胞シートを一度トリプシン処理で細胞を回収し、気道上皮の分化誘導培地のPneumaCult-Air-Liquid Interface(P-ALM) と、角化細胞用培地(KCM)という2種類の条件で気相化培養を行った。 P-ALMの条件下では、線毛細胞や杯細胞が観察された。一方、KCMの条件下では、線毛細胞、粘液細胞、そして角化のマーカーの一つであるCK1はほとんど観察されなかった。これより、鼻腔粘膜細胞シートは、周囲の培養条件に応答してもとの鼻腔粘膜組織に存在していた線毛細胞や杯細胞への分化能を持つことが明らかになった。一方で、もともと存在していない角化上皮細胞へは分化しない、またはしにくいことが示された。これらの結果について、昨年度に学術論文に報告し (Kasai Y, et al., FASEB Bioadv. 2022)、今年度に第124回 日本耳鼻咽喉科学会総会 宿題報告の一部として報告した(小島博己. 中耳真珠腫の病態解明と粘膜再生による新たな治療戦略)。
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