研究課題/領域番号 |
21K16852
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
黒沢 是之 東北大学, 医学系研究科, 講師 (10770349)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脱リン酸化酵素 / PP6 / がん抑制遺伝子 / 舌がん |
研究実績の概要 |
生化学的解析から、脱リン酸化酵素PP6がDNA修復に必須な機能をもつこと、また炎症を抑える機能をもつことが報告されている。また、メラノーマの組織の約10%で脱リン酸化酵素PP6の触媒サブユニット(Ppp6c)の機能喪失変異を持つ。これらのことから、PP6ががん抑制遺伝子として働くことが予測されていた。しかし、生体内での証明はなかった。申請者は、遺伝子改変マウスを用いて、Ppp6cが、がんの抑制遺伝子である事を、以下の2編の論文により証明した。まず、ケラチノサイト特異的にPpp6cを欠損させたマウスでは、紫外線照射で皮膚扁平上皮がんが発生し、その組織では変異型p53が共存した。論文1 *Kato H, *Kurosawa K et al. (*加藤,*黒沢、共筆頭著者) Cancer Lett. 2015 次に、ケラチノサイト特異的に変異型K-rasをもつマウスから、さらにPpp6cを欠損させると、著しく腫瘍化が促進されることを見出した。論文2 Kurosawa K, et al. Cancer Sci. 2018 頭頸部がんは、ゲノム変異の標的となる経路が限定されている。受容体チロシンキナーゼ(RTK)の変異が最も多く、その下流はHRAS、PI3K、PTENの変異が存在しRTK/RAS/PI3K経路が発症に関与していることが示唆された。またp53が84%で最も多く変化している。そこで、本研究では、RASとp53変異をもつ頭頸部がんの発がんへのPpp6cの関与を明らかにすることを目的に研究を計画した。現在までのところ、2重(Ppp6c欠損+変異型K-ras、あるいはPpp6c欠損+変異型p53)、あるいは3重変異(Ppp6c欠損+変異型K-ras+変異型p53)を誘導可能なマウスを作製し、舌がんおける、PP6の機能不全の、他のがん関連遺伝子との“相乗的”作用を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変異型RASや変異型p53によるマウス舌がん発生へのPpp6c遺伝子欠損の影響を解析するために、下記の3種類のマウスの作製に成功した。用いるマウスは、①舌で2重変異(変異型KrasとPpp6c欠損)をおこすマウスK14-Cre(TAM);Kras(LSL-G12D/+);Ppp6c(flox/flox) 、②舌で3重変異(変異型Krasとp53欠損とPpp6c欠損)をおこすマウスK14-CreTAM; Kras(LSL-G12D/+);p53(flox/flox); Ppp6c(flox/flox)である。これらマウスの舌にタモキシフェンを投与することにより、それぞれ、コントロールのPpp6c(+/+)より、腫瘍の発生が著しく促進されることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の結果が得られると同時に、課題も見えた、サイトケラチン14 でCREをドライブすると、舌に塗布しても、舌以外に口唇の腫瘍形成が著しいため、死亡の原因が口唇の腫瘍によるのか、舌腫瘍で食事ができなかったためなのかが区別できなかった。それを解決するために、K14-Cre(TAM)のかわりに、ROSA-Cre(TAM)により舌腫瘍を作製する系に切り替えた。この場合でも、舌においてPpp6c欠損させると、2重変異(変異型KrasとPpp6c欠損)または、3重変異(変異型Krasとp53欠損とPpp6c欠損)において、そのコントロールPpp6c(+/+)より、誘導後に13日目に、統計的に明らかな体重減少をきたし安楽死処分となった。Ppp6c欠損のマウスでは、舌の上皮全体が肥厚していた。上皮全体に細胞極性の喪失を伴う細胞異形が観察された。連続切片の免疫染色では、増殖マーカーであるKi-67とMCM2、扁平上皮マーカーであるサイトケラチン5(CK5)がすべての層に渡って観察され、病理組織学的にin situの扁平上皮癌(SCC in situ)と鑑別された。現在、Ppp6欠損による影響を、リン酸化タンパクアレイによる標的タンパクのスクリーニングの解析と、トランスクリプトーム解析を開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用使用額は、今年度の研究を効率的に進めたことに伴い発生した未使用額であり、令和4年度請求額と合わせ今後の研究遂行に使用する予定である。
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