研究課題/領域番号 |
21K16885
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
蒋池 かおり 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (90792408)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミュラーグリア / 網膜 / 増殖 / MMS / MNU / アルキル化剤 / 視細胞傷害 / 視細胞変性 |
研究実績の概要 |
哺乳類の網膜を再生させることを目的に、申請者らは網膜のグリア細胞であるミュラーグリアに注目している。現在我々は、アルキル化剤であるsigma社製N-methyl-N-nitrosourea (MNU)(MNU-S)、Toronto Research Chemicals社製MNU(MNU-T)、Nacalai社製Methyl Methanesulfonate (MMS) により視細胞変性を誘導し、視細胞変性の程度とミュラーグリアの増殖応答について比較し、その差異について検討を行っている。その結果、MMSを投与したラットではMNUを投与したラットよりも錐体視細胞が長く生残すること、ミュラーグリアの増殖応答が促進されることを明らかにした。本年度では、どのような因子がミュラーグリアの増殖応答の差異に関与するのかを明らかにするため、アルキル化剤を投与したラット網膜における成長因子とサイトカインの発現についてreal-time PCR法を用いて検討した。その結果、MMSを投与したラット網膜では、網膜傷害後、ミュラーグリアが分泌する神経保護因子として知られているLifの遺伝子発現がMNUを投与したラット網膜よりも高かった。また、ミュラーグリアおよび傷害を受けた視細胞が分泌し、ミュラーグリアの増殖応答に関与することが報告されているFgf2の遺伝子発現も、MNUを投与したラット網膜の方が高かった。以上の結果から、MMS投与ラットではLifによって錐体視細胞が保護され長く生残すること、桿体視細胞の方がミュラーグリアからの保護効果が弱いこと、生残した錐体視細胞あるいはミュラーグリア自身が分泌したFgf2がミュラーグリアの増殖応答を促進する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に実施する予定であった、「死にゆく錐体細胞が分泌していると考えられるサイトカインや成長因子について検討するため、それぞれの試薬を投与したラット網膜のRNAを抽出し、real-time PCRを用いて試薬間での差異について比較する。」という実験は、上述の通り、Lifによってより錐体視細胞が保護され長く生残すること、生残した錐体視細胞、あるいはミュラーグリア自身が分泌したFgf2がミュラーグリアの増殖応答を促進するという可能性を見出した。また、それらの結果を纏めた論文の執筆も順調に進んでいる。ミュラーグリアの増殖応答のメカニズムを解析する研究として、細胞死へと向かう桿体視細胞とミュラーグリアの増殖応答との関係に注目した報告はあるが、錐体視細胞に注目した報告は殆どない。本研究によって錐体視細胞によるミュラーグリアの増殖応答を制御するメカニズムが存在する可能性を見出したことは重要であり、その重要性を明らかにすることで網膜再生医療に寄与することを目指したい。哺乳類網膜の再生を目指す本研究に成果を還元できる新しい結果を得たことを勘案して、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究計画であった、「死にゆく錐体細胞が分泌していると考えられるサイトカインや成長因子について検討するため、それぞれの試薬を投与したラット網膜のRNAを抽出し、real-time PCRを用いて試薬間での差異について比較する」という実験計画については、上述した通りの結果を得た。また、「貪食細胞がミュラーグリアの増殖応答へ及ぼす影響」についてFluorescence activated cell sorter (FACS)を用いてミクログリアを単離し遺伝子発現の検討を行うための準備を進めている。
令和5年度では、以下のような推進方策を立てる。 1. 上述で得られた結果を含め、3つの試薬による視細胞の傷害とミュラーグリアの増殖応答について令和5年度中の論文投稿および受理を目指す。 2. 「貪食細胞がミュラーグリアの増殖応答へ及ぼす影響」について、傷害後の網膜からミクログリアを単離し、どのような遺伝子発現をしているのかreal-time PCR法を用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は論文執筆にあたり多くの時間を要し、425,951円の次年度使用金が発生した。次年度も本研究を遂行するにあたり、分子生物学的解析に必要な酵素、抗体、消耗品および実験用動物を購入する。また、コロナ禍の影響が減少し、現地開催の発表の場も増えてきたため研究成果発表のための出張費や、学術誌に掲載する際の論文投稿費として使用する。
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