前年度に引き続いてカルニチンアセチルトランスフェラーゼ(CrAT)の過剰発現による網膜神経節細胞への影響を評価した。ウイルスベクターを用いて網膜神経節細胞内にCrATを過剰発現させたマウスでは、対照群に比較して視神経挫滅一か月に残存する網膜神経節細胞数が有意に多い結果であった。このことから、CrATは長期にわたり視神経障害に対して神経保護効果を持つことが示された。さらにCrATによる神経保護機構を調べるため、マウス神経細胞株であるHT22細胞にテトラサイクリン誘導性のCrAT過剰発現細胞(Tet-On)を作製しクローニングした。具体的には、TRE-mCrAT-CMV-EGFPを搭載したレンチウイルスベクターをMOI (multiplicity of infection)を50のタイターでHT22細胞に感染させた。感染にはポリブレンを12 ug/mlで使用した。同条件で2回レンチウイルスベクターを感染させたのち、FACSにてEGFP陽性細胞をソーティングしTRE-mCrAT遺伝子が導入された細胞のみを単離した。その後、EF1a-rtTA-TS-hygroを搭載したレンチウイルスベクターを感染させ、ハイグロマイシンによるセレクション培養によりTet-Onに必要な遺伝子が全て導入された細胞のみを選別した。その結果、ドキシサイクリン処理においてCrATの発現は有意に増加し、任意のタイミングでCrATを過剰発現できる神経細胞培養株の樹立に成功した。今後、この細胞株を用いて種々のストレス条件下(低酸素、酸化ストレスなど)を誘導し、CrATの神経保護機構について評価する予定である。
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